第35話

今年の東京は秋というものを亡失してしまったらしく、まだ師走の商戦も始まらぬ内に初雪を観測した。朝出勤すると、葵ちゃんがせっせと署内のオフィス機器を立ち上げていた。先日の体調不良の件を私は大いに心配していたが、どうやら葵ちゃんのコンディションはすっかり回復したようだ。

「体調は大丈夫ですか葵ちゃん?」

「はい、おかげさまで」

三角耳をぴょこぴょこと動かしながら答える葵ちゃん。だいぶ表情も明るい。

「あと、簡単な魔法が使えるようになりました。寝込んでる時に発現したみたいです」

葵ちゃんはそう言いながら、私のデスクに置いてあった紙を凍らせてみせた。氷系統の魔法か、どうも新宿支署には集まりやすいのかもしれない。

「おやおや。今度熊谷さんに使い方を教わってみるといいですね。多分手取り足取り熱心に教えてくれると思いますよ」

動物大好き熊谷さんなら狐娘の葵ちゃんにはさぞ熱心に教えたがるだろう。

「ところで坂上くんはどこですか?」

普段ならデスクで一升瓶を転がしている男の姿が見当たらない。まだ実調の命令も出ていないはずだがどこへ行ったというのか。ウロウロと探していると矢吹係長から「坂上は飲みに出かけた」という情報提供があった。朝から開いている飲み屋があるのが悪いのか、それとも朝から飲みに行く奴が悪いのか…私はどうしてもついて来るという葵ちゃんを連れて坂上を探しに出た。

歌舞伎町の一角にある、24時間営業の居酒屋。そこで坂上は4体ばかりの信楽焼のタヌキの置物に囲まれて酒を飲んでいた。声をかける段になって、私はそのタヌキが置物ではなく妖怪であることに気づいた。妖怪化け狸。別に何か悪さをするでもなく、酒場に出没しては酒の飲んでポンポコ騒いでいるだけの陽気な連中だ。

「ん~おいしい!灘の酒が口いっぱいに広がりますぅ!」

酒を飲みながら語るのは眼鏡をかけた恰幅のいい狸の妖怪、たぬ蔵(170歳)。遠目にはタヌキどころか熊に見えなくもない。

「いや~美味い!朝からこんなん飲んでたら頭おかしなるで」

同じく酒を飲みながら語る、顔に不釣り合いなデカいサングラスでキメた狸の妖怪、TANU@GAME(タヌゲーム、132歳)。高田馬場周辺を根城にしており、『戸塚勃起狸』なる蔑称別称で呼ばれている。

「まあいいじゃありませんか飲酒は自由ですから」

そう重々しく述べたのは4体の中で最年長、日本を代表する偉大な狸の妖怪、狸田たぬ作先生(700歳)。室町時代よりも前には楠木正成の陣営に参加していたという伝説の持ち主である。

「フウ~朝から飲酒気持ちいい~!あっお姉さんビールビール!生追加で」

やけにテンションが高いのは全体的に肌が黒く、異様に筋肉質な狸の妖怪、通称タヌウ先輩(114歳)。4体の中では最年少だが何故か先輩と呼ばれている。下北沢地区で妖怪詰云を全滅させた功績を持つパワー系タヌキでもある。

「これはこれは皆さん朝からお揃いで」

私が挨拶をすると、狸の妖怪達は思い思いのタイミングで挨拶を返してきた。全員声が被っていて一つも聞き取れなかった。彼らは私の後ろで緊張している葵ちゃんに気づいて、一斉に腹太鼓を鳴らした。敵対していない妖怪に対する、彼らなりの友好の挨拶である。当の葵ちゃんはびっくりしたのか、私の背中を思い切り摘んだので私は背中に内出血を負った。

「坂上くん、飲みの最中悪いんですが調査業務です。都庁裏に行ってください」

坂上も狸軍団もそのまま店を後にしたため、会計は私が払わされる羽目になった。

新宿高層ビル群の象徴ともいえる東京都庁。その裏に広がる緑地に姿を現したのは醜悪な妖怪、質糟であった。今までの質糟よりもさらに醜悪な姿に変貌し、そのキモオーラでメンヘラ女性たちを次々に失神させていた。そこを運悪く通りかかったのは、岐阜から避難してきていた女子高校生の初海ちゃんだった。

「ゲヘヘヘヘ…俺は前前前世から君のことを求めてたんだよ!」

初海ちゃんににじり寄る質糟。

「いや…気持ち悪すぎ…瀧くん助けて!」

メンヘラではない初海ちゃん、当然の反応を示す。だが彼女と数奇な運命を経て絶賛交際中の瀧少年はその場にはいない。じりじりと迫りくる質糟。危うし初海ちゃん。このままでは精神と肉体をダブルレイ○されてしまう。

「あ、おい待てい」

現場に到着した坂上、サカヅキに変身して質糟に殴りかかる。両者は一進一退の攻防を繰り広げる。素の戦闘能力で上回る坂上が徐々に質糟を圧倒し始めたが、質糟が突然口から茶色い液体を吹いた。それを浴びた盃鬼の装甲の一部が融ける。

「うおっ!何だこいつ」

驚いて飛びすさる盃鬼。調子に乗った質糟はどんどん液体を吹いてくる。液体が初海ちゃんにかかってはいけないので、徐々に盃鬼が劣勢に立たされていく。もはや勝ち(と初海ちゃんへのレ○プ成功)を確信した質糟は小躍りしながら飛びかかろうと体勢を整えている。

「お ま た せ」

そこへ金玉の皮を拡げ凧のように空を飛ぶ、愉快な狸軍団がやってきた。タヌウ先輩とたぬ作先生、そしてたぬ蔵の3体だ。タヌゲームはオフ会をしに板橋のイオンへ行ってしまったということらしい。

ヨガフレイム!」

たぬ作先生が火を噴くと、質糟は舌打ちしながら飛びのいた。

「坂上くん、これを使いなさい。今日の酒代のお礼です」

酒代を払ったのは私だが、その事実を指摘する者はこの場に誰もいない。たぬ作先生は金色に輝くコインのような物を盃鬼に渡した。俗に妖怪メダルとか呼ばれているアイテムである。坂上がそれを武器の法螺貝の中に突っ込むと

「タヌキ!キンタマ!アーマー!タタタタタタヌキンアーマー!」

とよくわからない音声が流れ、盃鬼が金色に輝く装甲を纏ってゆく。盃鬼の、現役の戦鬼としては闘鬼、暁鬼に次ぐ3例目の装甲形態である。質糟はそれを見て再び茶色い液体を吹きつけるが、ワックスを塗った車体にかかった雨粒のようにあっけなく弾かれてしまう。

盃鬼は法螺貝から炎を放つ。今までの火球とは色からして違う。金色に輝く炎が噴射され、それの直撃を受けた質糟は「女…女いねえか…」と断末魔のキモイ叫びを上げながら燃え尽きた。

戦いを見届けたたぬ作先生ら狸軍団の一行は満足げに飛び去って行った。金玉の大風呂敷を拡げて…。初海ちゃんは坂上に礼を言うと、迎えに来た瀧くんと連れ立って帰って行った。

「うい~っす戻りました~」

私と熊谷さんが葵ちゃんの魔法の練習を見守っていると坂上が戻ってきた。「質糟キモすぎしね」と思いっきり雑に書きなぐった紙切れ(坂上はそれを報告書だと主張していたが)を私に押し付け帰ろうとする坂上。

「待ちなさい坂上くん。はいこれ、今月の給料」

私は坂上に給料袋を手渡す。

「あ、ありがとナス!って薄い…薄くない?今月の給料袋」

「今日の飲み代を天引きさせてもらいましたからね」

悪魔か死神を見るような目で私を見る坂上。私は坂上の視線に気づかないフリをして、葵ちゃんの魔法の練習の様子を見ていた。

つづく

 

第34話

「ずん…ずんずん…ずんだ餅

朝出勤してくると、妙な鼻歌が室内から聞こえてきた。何事かと思って入室するとデスクがずんだ餅だらけになっていた。その奥では宮前姉妹が物凄い勢いでずんだ餅を捏ねていた。

「えぇ…」

私も困惑するしかない。熊谷さんも洲本さんも呆れた様子だ。唯一坂上だけが、ずんだ餅を肴に酒を飲んでいた。その組み合わせは絶対に太ると思うが。豊之内は餅を搗いていたが、右手に杵を持ち左手で餅を捏ねていた。器用な奴だ…。

「気を取り直してミーティングをやります」

とは言ってみたものの、皆ずんだ餅の食い過ぎで私の話を聞いていない。仕方なく動けそうなメンバーを選んで打ち合わせを始める。ずんだ餅テロを起こした張本人の宮前さん…ではなく共謀者の詩織ちゃんと、遠慮してあまり食べていなかった一之江さん、そして胃腸の頑丈なスギウラさんの3名であった。

スギウラさんに調査場所、対象物などの情報を手短に説明し、3人を見送る。それほど厄介な相手でもないし危険な場所でもないので、すぐに終わるだろう。私はそう考えていた。

「詩織たち、中々帰ってきませんね…」

冬の東京は昼が短い。夕方も5時を回る頃には日没を迎え、周囲は既に夜の帳が降りつつある。妹のことが心配になってきたのか、宮前さんは朝とは打って変わって浮かない表情だ。直後、署内の電話が鳴る。だが電話の主は戻っていない3人ではなく本庁の神楽坂であった。

「夜分にすまんが、飯田橋にま~た詰云が出た。ちょっと職員を出してくれ」

私は出没したのがただの詰云であったことに安堵した反面、3人からの連絡がないことに流石に不安が募る。飯田橋には豊之内係長の指揮の下、宮前さん・鹿島さんとホリ隊員が出動した。

「流石に遅すぎるな…」

私もこれ以上放っておくのは不安になったので、3人を探しに行くことにした。徒歩で行っても良いが、万が一のことがあった時に3人を担いで帰るのは無理である。秋山係長に車を出してもらうことにした。

「葵ちゃんも来てください」

狐娘は嗅覚と聴覚は狐並みに優れている。暗闇で人を探すにはうってつけの人材と言えるだろう。夜は冷えるからと、熊谷さんが葵ちゃんにコートを羽織らせてくれた。

3人が調査に行っている場所は杉並区の外れの方、西東京市との境目のあたりである。道路はひどく混雑していたが、秋山係長は器用にすり抜けて進んで行く。人気の少ない路地に入ると、車の前にくっさいくっさい妖怪質糟(しちかす)が現れた。葵ちゃんの雌の匂いに釣られて出現したのだろう。怯える葵ちゃん。

「秋山さんちょっと車止めて。葵ちゃんは座席の下に隠れていてください」

私は新調したばかりの杖を手に車を降りた。質糟は女に飢えたキチ○イのような目でこちらを睨んでくる。私は杖に魔力を流し込む。従来の光線魔法は、杖の核で魔力を熱光線に変換していたのだが、ウルトラの星は単に変換するのではなく、宇宙元素を混合させることで威力を増幅させる力を持っている。従来のものとは比較にならない極太の光線を浴びた質糟は一言も発することなく消滅した。

「これがストリウム光線か…」

あまりの威力に撃った私自身も驚かされた。杖の核を変えるだけでここまで変わるとは思っていなかった。ウルトラの星、恐るべし。ゴミを片づけた私達は、再び車で路地を進んで行く。

「あっちの方角からスギウラさんの匂いがします」

葵ちゃんが右方向を指さす。そちらの方向へ車を走らせると、人気のない広場の奥に老朽化した公衆トイレが建っている。近寄ると途轍もなく臭いトイレであった。あまりの臭さに、葵ちゃんはタオルを何枚も重ねたもので鼻を覆って車の中に隠れてしまった。

トイレの脇の茂みから一之江さんが姿を現した。詩織ちゃん、スギウラさんも後に続いて続々と茂みから出てくる。事情を聞いてみると、敵のガスの怪物は問題なく倒したものの、その怪物の断末魔に放出されるイカ臭いガスを大量に吸い込んで気分が悪くなってしまい、さらに出かける前に食べたずんだ餅の状態が良くなかったためか3人して猛烈な腹痛に襲われたのだという。

「で、公衆トイレに入ろうと思ったら臭いし汚いし紙もないから藪に入って用を足してたってわけ」

とスギウラさん。年頃の女性がそれをやってはいけない…

「それでお尻はどうやって拭いたんですかね…」

私は不安になったので聞いてみた。幸いそのままということはなく、持っていたタオルとハンカチで拭いたあとスギウラさんの魔法で燃やしたとのことであった。

かくして3人を無事に連れ帰ると、心配そうな顔をしていた宮前さんの表情に安堵の色が戻った。宮前さんは妹を抱きしめようとして、臭いに気づいて一瞬躊躇する様子を見せたが、結局そのまま抱きしめた。

一之江さんは魔法師としてのデビュー戦であったが、戦闘の方はなかなか素晴らしいデビューとなった。しかし今日の顛末から「魔物に勝ってずんだに負けた」と揶揄されることになってしまうかもしれない。私は一之江さんの名誉の為に、今日の出来事を口外しないよう署内に指示を出した。

葵ちゃんは敏感な嗅覚でウ○コの臭いを嗅がされ続けたために気分が悪くなってしまったそうで、風呂から上がるなり布団に潜り込んで寝てしまった。茜ちゃんはそれを見て何かのアロマみたいな奴を撒き、葵ちゃんの横で一緒に寝始めた。姉妹とはそういうものなのかもしれない。

ドタバタしている内に深夜になっていた。私は残っていたずんだ餅をつまみ—その夜トイレから出ることができなかった。

つづく

 

 

 

 

雑記38

社会人になって一番変わったことといえばコンスタントに映画を観に行く金を稼げるようになったことかもしれません。昭和のサラリーマンかな?

響け!ユーフォニアム

女の子は黙ってれば可愛い。教師が独裁権と同調圧力を濫用して吹奏楽部を大会で勝てるチームに作り替えていく話。人間関係はボロボロ。トランペットが上手いくらいで特別になれるの?そんなんじゃ甘いよ。顧問の瀧某ホントひで。そんし君やA君に教師やらせた方が絶対マシ。高坂麗奈よ、そんなに「特別」が好きなら特別養護施設の職員を目指してみないか?トランペット奏者よりよほど特別を味わえるぞ、って感じですね。

・ずっと前から好きでした(告白実行委員会

お前のことが好きだったんだよ!(大胆な告白は女の子の特権)。 職場の近くが舞台になっていてああ^~ってなりました。正直ユーフォニアムの女の子たちより欲望に忠実な分人間としてはいいんじゃないでしょうか。anything goes!その心が求めるものに正直になればなるほどlife goes on!加速ついて止められなくて負ける気しないはず。って感じ?

・帰ってきたヒトラー

めっちゃ面白かったです。上映中ずっと自分草いいすか?って感じでした。ヒトラー最後の12日間のパロディの使い方が圧倒的に上手くて流石本場ドイツ人は違えわ…ってなりました。ヒトラーじゃなくてお前が発狂すんのかよ、的な。英国EU離脱にトランプ大統領と、現実世界が映画を追いかけている感さえありますね。

シン・ゴジラ

やったぜ。投稿者:変態クソ怪獣。いつもの庵野の兄ちゃん(56)と総理大臣になったXIGの参謀のおっさん(72)とわし(年齢不詳)の2人と一匹で盛り合ったら、もう東京中炎まみれや。蒲田を破壊するのは…やめようね!大戸島と在来線を大切にして…生きようね!

君の名は。

総理!トトロが出現しました!神田川を遡上してきます!

えっ!雑司ヶ谷に?

トトロを凍結させる!糸守作戦始動!

全国のプラントをフル稼働して美少女の口噛み酒を製造しています。

トトロを転倒させる!無人都電荒川線爆弾を用意しろ!

そこへ無慈悲に落ちてくる隕石。見上げる三葉ちゃん。届かない瀧くん。そこへ突如現れる銀色のヒーロー!新海監督最新作、『新海ワールド大戦・君の名は。来たぞ!われらのウルトラマン』お楽しみに。

・葛城事件

いや~キツイっす。重い話が淡々と繰り広げられ、画面の向こうの視聴者にはどうすることもできない。アウトレイジみたいにバイオレンスやられるよりよっぽど精神にきます。登場人物の狂気を除けば背景も人物も何もかも我々の身の回りに当たり前に存在するものである点がよりキツさを増しています。ある意味戦争ものよりキツイ。今度早稲田松竹で上映ありますあります。見とけよ見とけよ~

・聲の形

特別になりたくてなったわけじゃないのに、悪い意味で特別になってしまった者達の物語。子供の頃いじめてた相手が何故か自分のことを好きになるというのは個人的には気に食わぬ所ではありますが。まあでもアレだよ、西宮姉妹以外は本当に「全員、悪人」って感じですわ。しかし悪人にこそ救いが必要なんですねえ(悪人正機説

この世界の片隅に

重い。わかってはいたけど重い。ああ逃れられない!(ひで)去年観た『野火』で感じた逃れられない感再び。能年玲奈さん声優適性ありますね…。ちょっと間延びした演技がとても良かった。戦争という異常の中で普通でいることの困難さを描いた作品と言えるでしょう。みんな観ろよ観ろよ、劇場版艦これなんか必要ねえんだよ!

今年は映画はもう十分堪能したよ…いえ、まだ告白実行委員会第2作が残っておりますので。んん~マ°っ!

おわり

第33話

秋も終わりが近づき、我らが新宿支署でもようやく暖房の運転が始まった。国からは節電方針などというバカげたお触れが出ており、暖房も必要最小限の運転をするように、とのことだったが米長コマンダーの「うるせえ」の一言で普通に暖房運転できるようになった。

デスクに座ると何だかいつもと違っていた。暖房は普通に運転されているが、なにやら足元が暖かい。葵ちゃんが潜り込んでいるのかと思ったが、彼女はコーヒーを盆に載せてこちらへ歩いてきている。

「おはようございます、島畑先生」

挨拶の主は一之江さんだったが、彼女は杖を振って何やら魔法を展開している。どうやら暖房の温風(部屋の上部に溜まる)を下へ降ろす練習をしていたようだ。

「おはようございます。練習ですか?」

「気流の操作です。実調の場に出るまでに制御できるレベルにしておくようにと矢吹係長に言われました」

一之江さんは風系統の魔法を使う。一之江家は魔法の総合商社と言われた名門だったのだが、今は彼女の実家を含め傍流が残っているだけである。彼女の父は風魔法の名手であり、紛争時に中立を宣言して表舞台を退き現在は魔法学校の教師をしている。私も会ったことがあるが、突然変異的な善人と言われたほど温厚な人物であった。

「アリスちゃん、今日は貴方と私が実調です。準備して」

神木田さんの呼びかけに同時に反応する一之江さんと鹿島さん。神木田さんはバツの悪そうな表情を浮かべ、鹿島さんの方を手招きで呼び寄せた。ちなみに二人は学校でどう呼び分けられていたのか後で詩織ちゃんに聞いたところ「イッチーとカッシー」だったらしい。ネッシーの親戚かな?

実調場所は化け物頻出地として毎度おなじみの戸山公園であった。もう秋も終盤、流石に寒風吹きすさぶ中で愛をささやき合うバカップルも飲み会に興じるバカ学生もいなかった。『箱根山』と称される小高い丘を登る二人。眼下では子供たちがサッカーに興じている。

「今回は何が出たんですか?詰云ではないんですか?」

不安気な鹿島さん。神木田さんも魔法師としては駆け出しである。

「なんかガス状の化け物ですって。茶色いガス状の…あっ!」

答えながら前を歩いていた神木田さん、さっそくそれを発見した。報告と異なっていたのは、金属質のドラム缶のような殻に入っていたことだ。ちょうどヤドカリのように。

「とりあえず燃やす!」

神木田さんは叫ぶと杖を左手で振り上げる。温度の高い青い炎が標的を包み込む。およそ2~3分ほど青い炎を浴びせ続けた神木田さん。しかしドラム缶のような殻は表面に少し煤が付着した程度であった。今度は少し温度の低い、オレンジ色の炎を多方向から同時に浴びせる神木田さん。殻は熱を受けて若干膨れたようにも見えるが、中のガス状の怪物は特にダメージを受けた様子はない。

「硬いわね…」

やや困惑した様子の神木田さん。鹿島さんはちょっと泣きそうな顔をしている。

「か、神木田さんどうしましょう?本部から応援呼びますか?」

「いや、私に考えがあるわ。指示に従ってちょうだい」

怪物に悟られないよう、指示をヒソヒソと耳打ちする神木田さん。鹿島さんが指示を受けて少し離れると、ガス状の怪物はそちらの方向へ追尾しようと殻から出てくる。

「させない!」

神木田さんが炎を打ち込むが、怪物は炎が到達する前に殻に戻ってしまう。神木田さんはそれでも構わず炎で延々と殻を炙り続ける。炎の色がオレンジから青に変わるが、やはり殻は微動だにしない。神木田さんの魔法力が不足してきたのか、再び炎がオレンジ色に変化し始める。

「今よ!」

神木田さんはそう叫ぶと突然炎を止めた。と同時に鹿島さんが杖を思い切り振った。すると怪物の直下から冷水が勢いよく噴き上がる。冷や水を勢いよくぶっかけられ、殻はベコッバキッと大きな音を立ててひしゃげた。ガス状の怪物は中から泡を食ったように飛び出してくる。

「逃がさない~!」

神木田さん、残された魔力を全て注ぎ込んだ青い炎をガス状の怪物に向けて放つ。逃げ場も隠れ家も失った怪物は超高温の炎の直撃をくらい、景気よく燃え上がった。周囲に栗の花のような強烈な臭いが立ち込める。

「「うっ、くさい…」」

二人とも思わずハンカチを口に当ててうずくまってしまった。ガス状の怪物は栗の花の匂いを公園中にまき散らして消滅した。鹿島さんにとっては初めての実調であったが、どうにか無事に終了した。ハンカチで口を押えて涙目になっている彼女にその実感があるかどうかはわからないが。

私は庁舎に戻ってきた二人から報告書を受け取り、目を通す。

「なるほど膨張係数の違いを利用して殻を壊したわけですか。考えましたね」

神木田さんに称賛の言葉をかけると、彼女は少し照れた様子であった。鹿島さんは臭いによるダメージからようやく立ち直ったらしく、照れた様子の神木田さんを見つめていた。

「ところでお茶にしませんか?洲本さんが京都の方からお茶請けを取り寄せたそうですので」

「へえ、羊羹とかですか?それとも八つ橋?味付き金平糖なら最高ですね」

顔を輝かせる鹿島さん。

「栗ですよ。なんでも有名な店の焼き栗きんとんだそうで…」

「「栗はもうイヤーっ!」」

神木田さんと鹿島さんの声が見事にハモった。仕方がないので私は寒風の中おはぎを買いに行った。

つづく

雑記37

ブログに限らず、上手い人ほど作品を公開したがらないの何なんでしょうね。「100点満点の作品しか人様に見せられない症候群」にかかってませんか?私は自己採点で赤点じゃなければとりあえず公開しちゃいます。ブログの更新頻度が遅い人は自己採点が厳しすぎるのでわ?忙しくて書けないだけか…

今書いてるSS(というカテゴリに入れて良いのか?)もいつの間にか30本くらい書いたので、最初の方のとか途中の思いつきで適当に書いたやつとかをキチンと体裁を整えて書き直したい気持ちがあります。多分ブログで公開はしないで文書ファイルか何かにしてパソコンの中に封印しますけど。今使ってるPCにワード入ってませんけど…

宮城県にキツネ専門の公園があるというのをテレビで観ました。宮城蔵王キツネ村…気になりますねえ。ホンドギツネ・キタキツネ・ギンギツネにホッキョクギツネがいるそうです。エキノコックス対策として全て自家繁殖させた狐を飼育しているらしいです。自家繁殖なので人懐こい個体が多いとか。行きてえなあ…

狐娘にめちゃくちゃ精液搾り取られたい、みたいなことを考えていたのですが、狐娘にも色々な系統とか家系があると思うので、今回はその話を少し。

昔話に出てくる九尾の狐、玉藻前の血を引く家系が那須家。玉藻は元来インドからアジア諸国を経由しているのでベンガルギツネの特徴を引いていると思われます。したがって金髪、金色の瞳を持っている。南方系なので三角耳は大きく、陰耳は小さくなります。巨乳が多そう。

日本在来種は稲荷信仰の盛んな地域に多いでしょう。関東では穴守家(東京)と笠間家(茨城)、愛知の豊川家、京都の伏見家、大阪の玉造家など+各地に土着の一族がいる感じかと思います。本土ギツネの特徴を引いて全体的に細身で華奢になる傾向が強く、茶髪か赤毛に黒~茶色系の瞳を持っている。あまり巨乳にならない。

北海道では日本在来の狐娘とほぼ同じ容姿ですが、キタキツネの特徴を引いているので三角耳が黒くなるのが特徴です。あと尻尾は全狐娘の中で最もフッサフサでしょうね。アイヌ社会と融和してひっそりと暮らしてそう。

明治以降になると海外からも流入があったはずです。中でも北米の銀狐の特徴を引く血統と北欧のホッキョクギツネ系統は容姿の多様性をもたらしたと推測されます。北米系は銀髪と青系の瞳が特徴で、北欧系は銀~白色の髪を持ち、三角耳が小さいのが特徴ということになるでしょう。

作中でたびたび出してる姉妹のうち、葵は青みを帯びた銀髪と空色の眼を有しているので、恐らく北米系の血を引いているものと思われます。じゃあ何故姉の方は赤みのある茶髪に茶色の瞳の日本在来種の特徴を持っているのか?

設定で狐娘は人間の男と交尾をして子孫を残すので、系統の違う狐娘同士が交わるはずはありません。狐娘の卵子のX染色体と人間の精子のX染色体で遺伝子情報が形成されるはずなので、普通に考えれば他の血統の遺伝子情報は入ってこないわけです。

でもそこは半人半妖の狐娘、過去に絶滅の危機に瀕した際に手に入れた能力があってもおかしくないでしょう。私が考えるに、人間の男の個体数が極端に減少した時に、狐娘たちは滅亡のリスクを避けるため一時的にふたなり化した個体が存在したのではないでしょうか?野生生物でも一時的に性転換する種は実在するので、半人半妖ならふたなりくらいはお手の物でしょう。

ふたなりが固定化しないのは、多分人間と交雑した方が障害や遺伝子異常が出にくいとかそういう理由なんじゃないですかね(適当)。なので人間の男が減る→ふたなり個体が出現→人間の男が増える→ふたなり個体が出現しなくなる、みたいなサイクルを経ているんだと思います。

茜と葵の姉妹の祖先も、多分日本在来種の血統だったのでしょう。彼女たちの3世代くらい前に太平洋戦争で人間の男の生息数が激減し、滅亡防止の為にふたなり化する者が出現したのでしょう。その時に北米系の狐娘と交尾して生まれたのが彼女たち姉妹の祖母だったので、妹の方は隔世遺伝で銀髪と青目になった、ということでどうでしょう?

さっきから何の話をしてるんですかねコイツは…キモッ!

おわり

 

 

第32話

私が出張で横浜へ出向いていた所に電話が入ったのは、ちょうど用件を済ませて帰ろうとしている時であった。電話の主は一之江さんであった。番号教えたことあったかな?と思ったが、マメな性格の神木田さんがデスクに電話番号のメモを貼っていたことを思い出した。恐らくアレを見たのだろう。

「どうか、しましたか?」

トイレのパイプでも詰まったかな?と軽い気持ちで電話に出る私。

「庁舎の周りが詰云だらけなんです~。早く戻ってきてください…」

電話機ごしでも一之江さんの声が震えているのがハッキリわかった。今日は私と秋山・豊之内の両係長は横浜へ出張。新城係長は有給休暇で不在、矢吹係長は熊谷さん・宮前姉と実調、スギウラさんは神木田さんとホリ隊員を連れて実調、白崎さんと島村さんは洲本さんと実調に、坂上と宮前妹は研修で本庁に出払っており、庁舎には鹿島さんと一之江さんしか戦力になる者はいなかった。

狐娘の姉妹茜ちゃんと葵ちゃん、それに犬娘の陽ちゃんはいるが、そもそもこの娘達は戦力にならない。

「詰云は何匹くらいいますか?コマンダーには連絡しましたね?」

私は彼女を落ち着かせようと、つとめて冷静に聞こえるように質問をゆっくりと投げかける。

「多分20匹くらいです。先日宮前先輩が見た、燃える詰云もいます。米長課長は今高田馬場駅なのでもうすぐ来られると思います」

泣き出しそうな声で答える一之江さん。

「あ、じゃあ大丈夫です。戸締りをきちんとして、鹿島さんと離れないようにデスクの周りで待機してください。葵ちゃん達には自室から出ないように言ってください」

米長コマンダーが来れば全く問題はない。とりあえず最低限の自衛だけをするよう指示を出し、私と豊之内は秋山係長の車に乗り込んだ。戻ったら支署がウンコまみれになっていなければ良いが…

「うおっ!なんじゃこりゃ!?」

米長コマンダーも、予想だにしない詰云の多さに驚いている。詰云インフェルノが煙と悪臭をまき散らしながら向かって来るのを見て、米長コマンダーは十手を構える。

十手と言っても、米長さんのそれは時代劇に出てくるものとはだいぶ異なっている。全長は80センチ以上あり、純銀と隕鉄を軸とした特殊な合金でできている。核にはウルトラの星と同じく特殊な宇宙鉱石『獅子の瞳』が使われている。しなりを活かして打撃武器としても、相手に突き刺す武器としても使用可能である。

「終わりっ!閉廷!君もう帰っていいよ」

米長さんは叫びながら光線を放ち、詰云インフェルノをバラバラにした。焼いてダメなら砕けばいいのである。とはいえ今回は数が多い。砕けた詰云インフェルノの後ろから別の個体がワラワラと迫ってくる。

「チッきりがねえな…」

米長さんは懐からカードのようなものを取り出す。それにはG5Xを意匠化したようなイラストが描かれていた。それを米長さんが十手の先に突き刺すと。十手を持つ右腕がG5Xのアーマーに、十手が自動小銃に変化した。そしていつもの轟音が鳴り響き、複数体の詰云がまとめて消滅した。

トレース魔法。米長さんの固有魔法である。彼がカードに描いた物を再現し、自分の力として利用できる魔法。一見きわめて強力だが絵の再現度が高くなければ全く役に立たないこともあり、かつて漫画家を志していた米長さんでなければ一線級の能力として使いこなすことは不可能だっただろう。

詰云の群れを倒した米長さんが振り返ると、別の詰云がまさに新宿支署のガラス戸を破ろうとしている所であった。自動小銃で撃てば内部にまで被害を及ぼしかねない。

クロックアップの時間だオラア!」

米長さんのトレースは、素材が実在していなければならないわけではない。次に彼が取り出したカードは2枚。片方には人気漫画に登場する幽波紋のイラストが、もう片方には宮前さん(姉)のイラストが描かれていた。そのカードを2枚同時に十手に突き刺す米長さん。

次の瞬間、米長さんの周囲の物すべてが静止した。その中を十手に高圧の電気を帯電させながら、悠然と歩む米長さん。ガラス戸を破らんとしていた詰云の前まで行き、帯電した十手で軽く小突く。静止が解け、全てが動き出すと、詰云は一瞬で黒焦げになり吹き飛ばされた。

私達が新宿支署に着いた時には問題は一切解決していた。結局実調組や研修組が戻ってくるのを待つことなく、大量の詰云軍団は米長コマンダーによって一掃されてしまっていたのだ。建物内で震えながら様子を見ていた一之江さんと鹿島さんも呆気に取られている。

コマンダー、お疲れ様でした。また派手にやりましたね」

私は出張土産の焼売を渡しながら周囲を見渡す。実調から戻ってきた白崎さんが詰云の残骸からどんどん草を生やして痕跡を消しているが、まだまだ周囲には詰云の残骸が転がっている。島村さんは鹿島さんに効率の良い散水魔法の使い方を教えている。

「まあ手加減ってのは逆に高度な技術が要るからなあ。もうちょっと余裕がある時ならもっときれいに戦えたんだが…」

と米長コマンダー。実戦は恐らく3年ぶりくらいである。

「それより久々に全力で行ったから腹減っちまったよ。焼売食おうぜ」

と米長コマンダーから提案を受け、後片付けに奔走していた面々もぞろぞろと庁舎内に戻っていった。私がお土産にチョイスしたジェット焼売は、匂いがすさまじくフロア内は2日間くらい焼売くさくなってしまった。

つづく

第31話

今年に入ってから急激に個体数が増加した妖怪、詰云。その発生のメカニズムは、実はまだよくわかっていない。当初は人間の女性が変異しているという物騒な説もあったのだが、失踪した人間女性よりも詰云発生数の方が明らかに多いので現在この説は否定されている。女性の怨念が実体化しているという説もあるが、これも決め手に欠ける説でしかない。昔は月に1体出るか出ないかだったのだが、今や新宿支署管内でさえ毎日のように出現報告が上がってくる。

「どっかに詰云の製造プラントでもあるんじゃねえの?」

米長コマンダーが冗談めかして笑う。

「冗談を言っている場合ではありません。今日も西早稲田地区で詰云の発生報告が来ています。今洲本さんと白崎さんに現場へ向かってもらっています」

私は書類を片手に報告する。詰云大量発生のメリットといえば、若手職員に実戦経験を多く積ませられることくらいだろうか。しかし詰云が臭過ぎるため、皆職場に戻ってくる際に消臭スプレーをダバダバと使うため署内がスプレー臭い。ウ○コ臭いよりはマシなのだろうが、もう少し改善したい所である。

などと考え事をしているとまたファックスが来た。もう勘弁してくれ…

「高円寺で異臭騒ぎが発生したそうです。また詰云の可能性が高いから人員を派遣してほしい、とのことです」

私はFAXを読み上げながら若干呆れていたが、ただ呆れているわけにもいかないので人員を派遣することにした。デスクを見渡すと宮前姉妹と熊谷さんがいたので、その3人を派遣することに決めた。

「お姉様と一緒に仕事するの初めてですね!お姉様の日本一美しい氷雪魔法を見せてください!」

張り切っている詩織ちゃん。熊谷さんは容姿もさることながら性格の明るさもあり、また美しい氷雪魔法の使い手であることから、同性の年少者からは絶大な人気がある。それでも「お姉様」と呼んでいるのは、熊谷さんの10年来の相棒の妹である詩織ちゃんしかいないのだが。

「詩織、あなたは実習生なんだから迷惑をかけないようにしなさい。はしゃぎ過ぎないこと」

宮前さんは妹の首根っこを掴んで言い聞かせる。熊谷さんが「お姉様」で自分が「お姉ちゃん」であることに、宮前さんはイマイチ納得していないらしかった。

「い、いじわるをしてはいけない…」

詩織ちゃんは首根っこを掴まれたままジタバタしていた。

高円寺駅前はちょっと洒落にならない状況に陥っていた。気分が悪くなってその場に座り込む人、我慢できず吐く人、タクシーを拾って大急ぎでその場を離脱する人などがあり、現場はかなり混乱していた。単なる異臭騒ぎにしては被害が大きい。本当に詰云の仕業なのだろうか、と現場に着いた3人は首をかしげている。

「あ、アイツじゃない?」

宮前さんが異臭騒ぎの元凶を発見した。姿形は詰云そのものだが、異様なのは詰云の身体の所々から火の手が上がっていたことである。ちょうど香炉のように、煙に乗って悪臭が拡散されていたのだ。

「私、やってみます!」

詩織ちゃんはそう言うと杖を振り、冷凍光線を詰云に向けて放つ。最初は表面がうっすらと凍ったように見えたが、詰云は炎を巡らせて氷結を取り除いてしまった。どうやら炎の勢いを自らの意思で制御しているようだ。

「詩織ちゃん、ちょっと代わってもらえる?」

熊谷さんはそう言いながら刀を抜いた。詩織ちゃんのそれとは比較にならない程に洗練された挙動で冷凍光線を放つ熊谷さん。詰云は先ほどとは違い身体全体が凍ったように見える。流石ですお姉様、とはしゃぐ詩織ちゃん。

だがそこに、もう一体のバーニング詰云(仮称)が現れ、凍った詰云を炙り始めた。ほんの数秒で氷漬けの詰云は復活し、ブスブスと火の手を上げる。ならばと二体の バーニング詰云に冷凍光線を放つ熊谷さん。しかしそこへ3体目のバーニング詰云が現れた。流石に3体の、火力十分の詰云を相手にするのは熊谷さんでも難しかった。宮前さんが放電で筋肉系統の破壊を試みたが、燃えている状態の詰云には効果がなかた。じわじわと後退していく3人。

「私が一匹相手にしますから、お姉様は2匹相手に集中してください」

詩織ちゃんはそう叫ぶと、二人の制止も聞かず詰云の一匹に突っ込んでゆく。しかしただでさえ魔法師として未熟な彼女が、相性最悪の相手に対して勝てるはずもない。悪臭と高熱でじわじわと追い詰められていく。最早詰云との距離は1メートルもなくなり、彼女は覚悟を決めて目を閉じた。

「こら詩織、妹のくせにお姉様より先に死のうなんて生意気過ぎるわよ」

電撃で詰云を弾き飛ばした宮前さん、詩織ちゃんと詰云の間に割って入る。

「お姉ちゃん…」

宮前さんの背中にピッタリとくっつく詩織ちゃん。

状況は全く以て最悪だった。熊谷さんも既に魔力を使い切っており、3人して壁際に追い込まれていた。スクラムを組んで徐々に距離を詰めてくる詰云軍団。その時、物凄い轟音が鳴り響き、3人は耳を塞いでしゃがみ込んだ。

轟音が鳴りやんだ時、詰云は跡形もなく砕け散っていた。

「いや~遅くなりました。皆さんご無事です?」

イマイチ緊張感のない声で確認するホリ隊員。先刻の轟音は、G5Xユニットの自動小銃を発砲した音であった。元々小型の怪獣との戦闘を想定した装備品である。詰云くらいならものの2~3秒で完全に解体可能である。目の前の危機が唐突に消滅し、安堵した3人はその場にへたり込んだ。

ホリ隊員に連れられて戻ってきた3人のために食事を用意しておいたのだが、流石に詰云の臭いをイヤというほど嗅がされた3人は首を激しく左右に振って受け取りを拒否して風呂場へ去ってしまった。

「例の燃える詰云の名称はどうしましょう?本庁からは仮称としてバーニング詰云と伝達されていますが。あ、私はシンプルにファイヤー詰云で良いかと思います」

「詰云インフェルノにしよう」

米長コマンダーの鶴の一声で、燃え上がる詰云の名称が決定した。それにしても、詰云が短期間で急激に進化しているのは一体何故なのか?詰云が今年に入って大量発生しているのは何故なのか?どこから湧いて出るのか?謎は残念ながら何一つ解明されていない。

「近いうちに大規模な実調でもやりましょうかね…」

とは言ったものの、私はこの時点ではそれほど深刻に考えていたわけではなかった。

つづく

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科特庁組織図

・科特庁長官

 ・副長官(科学部門)

  ・装備部長

   ・装備開発課長

   ・資材管理課長

  ・宇宙部長

   ・宇宙観測隊長

   ・宇宙資源研究課長

  ・防衛部長

   ・航空宇宙技官学校長

   ・巨大生物研究局長

   ・巨大生物対策課長

   ・関連機関調整課長

  ・超能力対策部長

   ・ESP研究所長

   ・超能力者監理課長

   ・超能力犯罪対策課長

  ・亜人部長

   ・亜人戸籍課長

   ・亜人保護課長

 ・副長官(非科学部門)

  ・特殊職員部長

   ・陰陽課長

   ・戦鬼課長

   ・退魔師課長

  ・魔法魔術管理部長

   ・魔法科教育課長

   ・魔法科教育委員長

   ・魔法師管理課長

   ・魔術師課長

  ・魔法魔術研究部長

   ・魔法科大学校長

   ・戦略魔法研究所長

   ・魔法史研究所長

 ・副長官(総務部門1)

  ・北海道方面本部長

  ・東北方面本部長

  ・関東方面本部長

  ・首都方面本部長←新宿支署はココの管轄

  ・甲信越方面本部長

  ・東海方面本部長

  ・北陸方面本部長

  ・関西方面本部長

  ・中国方面本部長

  ・四国方面本部長

  ・九州方面本部長

  ・琉球局長

 ・副長官(総務部門2)

  ・経理部長

  ・監理部長

  ・監査部長

  ・広報部長

   ・広聴課長

   ・広報課長

  ・人事部長

   ・採用室長

   ・人材育成課長

   ・人事戦略課長