第31話

今年に入ってから急激に個体数が増加した妖怪、詰云。その発生のメカニズムは、実はまだよくわかっていない。当初は人間の女性が変異しているという物騒な説もあったのだが、失踪した人間女性よりも詰云発生数の方が明らかに多いので現在この説は否定されている。女性の怨念が実体化しているという説もあるが、これも決め手に欠ける説でしかない。昔は月に1体出るか出ないかだったのだが、今や新宿支署管内でさえ毎日のように出現報告が上がってくる。

「どっかに詰云の製造プラントでもあるんじゃねえの?」

米長コマンダーが冗談めかして笑う。

「冗談を言っている場合ではありません。今日も西早稲田地区で詰云の発生報告が来ています。今洲本さんと白崎さんに現場へ向かってもらっています」

私は書類を片手に報告する。詰云大量発生のメリットといえば、若手職員に実戦経験を多く積ませられることくらいだろうか。しかし詰云が臭過ぎるため、皆職場に戻ってくる際に消臭スプレーをダバダバと使うため署内がスプレー臭い。ウ○コ臭いよりはマシなのだろうが、もう少し改善したい所である。

などと考え事をしているとまたファックスが来た。もう勘弁してくれ…

「高円寺で異臭騒ぎが発生したそうです。また詰云の可能性が高いから人員を派遣してほしい、とのことです」

私はFAXを読み上げながら若干呆れていたが、ただ呆れているわけにもいかないので人員を派遣することにした。デスクを見渡すと宮前姉妹と熊谷さんがいたので、その3人を派遣することに決めた。

「お姉様と一緒に仕事するの初めてですね!お姉様の日本一美しい氷雪魔法を見せてください!」

張り切っている詩織ちゃん。熊谷さんは容姿もさることながら性格の明るさもあり、また美しい氷雪魔法の使い手であることから、同性の年少者からは絶大な人気がある。それでも「お姉様」と呼んでいるのは、熊谷さんの10年来の相棒の妹である詩織ちゃんしかいないのだが。

「詩織、あなたは実習生なんだから迷惑をかけないようにしなさい。はしゃぎ過ぎないこと」

宮前さんは妹の首根っこを掴んで言い聞かせる。熊谷さんが「お姉様」で自分が「お姉ちゃん」であることに、宮前さんはイマイチ納得していないらしかった。

「い、いじわるをしてはいけない…」

詩織ちゃんは首根っこを掴まれたままジタバタしていた。

高円寺駅前はちょっと洒落にならない状況に陥っていた。気分が悪くなってその場に座り込む人、我慢できず吐く人、タクシーを拾って大急ぎでその場を離脱する人などがあり、現場はかなり混乱していた。単なる異臭騒ぎにしては被害が大きい。本当に詰云の仕業なのだろうか、と現場に着いた3人は首をかしげている。

「あ、アイツじゃない?」

宮前さんが異臭騒ぎの元凶を発見した。姿形は詰云そのものだが、異様なのは詰云の身体の所々から火の手が上がっていたことである。ちょうど香炉のように、煙に乗って悪臭が拡散されていたのだ。

「私、やってみます!」

詩織ちゃんはそう言うと杖を振り、冷凍光線を詰云に向けて放つ。最初は表面がうっすらと凍ったように見えたが、詰云は炎を巡らせて氷結を取り除いてしまった。どうやら炎の勢いを自らの意思で制御しているようだ。

「詩織ちゃん、ちょっと代わってもらえる?」

熊谷さんはそう言いながら刀を抜いた。詩織ちゃんのそれとは比較にならない程に洗練された挙動で冷凍光線を放つ熊谷さん。詰云は先ほどとは違い身体全体が凍ったように見える。流石ですお姉様、とはしゃぐ詩織ちゃん。

だがそこに、もう一体のバーニング詰云(仮称)が現れ、凍った詰云を炙り始めた。ほんの数秒で氷漬けの詰云は復活し、ブスブスと火の手を上げる。ならばと二体の バーニング詰云に冷凍光線を放つ熊谷さん。しかしそこへ3体目のバーニング詰云が現れた。流石に3体の、火力十分の詰云を相手にするのは熊谷さんでも難しかった。宮前さんが放電で筋肉系統の破壊を試みたが、燃えている状態の詰云には効果がなかた。じわじわと後退していく3人。

「私が一匹相手にしますから、お姉様は2匹相手に集中してください」

詩織ちゃんはそう叫ぶと、二人の制止も聞かず詰云の一匹に突っ込んでゆく。しかしただでさえ魔法師として未熟な彼女が、相性最悪の相手に対して勝てるはずもない。悪臭と高熱でじわじわと追い詰められていく。最早詰云との距離は1メートルもなくなり、彼女は覚悟を決めて目を閉じた。

「こら詩織、妹のくせにお姉様より先に死のうなんて生意気過ぎるわよ」

電撃で詰云を弾き飛ばした宮前さん、詩織ちゃんと詰云の間に割って入る。

「お姉ちゃん…」

宮前さんの背中にピッタリとくっつく詩織ちゃん。

状況は全く以て最悪だった。熊谷さんも既に魔力を使い切っており、3人して壁際に追い込まれていた。スクラムを組んで徐々に距離を詰めてくる詰云軍団。その時、物凄い轟音が鳴り響き、3人は耳を塞いでしゃがみ込んだ。

轟音が鳴りやんだ時、詰云は跡形もなく砕け散っていた。

「いや~遅くなりました。皆さんご無事です?」

イマイチ緊張感のない声で確認するホリ隊員。先刻の轟音は、G5Xユニットの自動小銃を発砲した音であった。元々小型の怪獣との戦闘を想定した装備品である。詰云くらいならものの2~3秒で完全に解体可能である。目の前の危機が唐突に消滅し、安堵した3人はその場にへたり込んだ。

ホリ隊員に連れられて戻ってきた3人のために食事を用意しておいたのだが、流石に詰云の臭いをイヤというほど嗅がされた3人は首を激しく左右に振って受け取りを拒否して風呂場へ去ってしまった。

「例の燃える詰云の名称はどうしましょう?本庁からは仮称としてバーニング詰云と伝達されていますが。あ、私はシンプルにファイヤー詰云で良いかと思います」

「詰云インフェルノにしよう」

米長コマンダーの鶴の一声で、燃え上がる詰云の名称が決定した。それにしても、詰云が短期間で急激に進化しているのは一体何故なのか?詰云が今年に入って大量発生しているのは何故なのか?どこから湧いて出るのか?謎は残念ながら何一つ解明されていない。

「近いうちに大規模な実調でもやりましょうかね…」

とは言ったものの、私はこの時点ではそれほど深刻に考えていたわけではなかった。

つづく

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科特庁組織図

・科特庁長官

 ・副長官(科学部門)

  ・装備部長

   ・装備開発課長

   ・資材管理課長

  ・宇宙部長

   ・宇宙観測隊長

   ・宇宙資源研究課長

  ・防衛部長

   ・航空宇宙技官学校長

   ・巨大生物研究局長

   ・巨大生物対策課長

   ・関連機関調整課長

  ・超能力対策部長

   ・ESP研究所長

   ・超能力者監理課長

   ・超能力犯罪対策課長

  ・亜人部長

   ・亜人戸籍課長

   ・亜人保護課長

 ・副長官(非科学部門)

  ・特殊職員部長

   ・陰陽課長

   ・戦鬼課長

   ・退魔師課長

  ・魔法魔術管理部長

   ・魔法科教育課長

   ・魔法科教育委員長

   ・魔法師管理課長

   ・魔術師課長

  ・魔法魔術研究部長

   ・魔法科大学校長

   ・戦略魔法研究所長

   ・魔法史研究所長

 ・副長官(総務部門1)

  ・北海道方面本部長

  ・東北方面本部長

  ・関東方面本部長

  ・首都方面本部長←新宿支署はココの管轄

  ・甲信越方面本部長

  ・東海方面本部長

  ・北陸方面本部長

  ・関西方面本部長

  ・中国方面本部長

  ・四国方面本部長

  ・九州方面本部長

  ・琉球局長

 ・副長官(総務部門2)

  ・経理部長

  ・監理部長

  ・監査部長

  ・広報部長

   ・広聴課長

   ・広報課長

  ・人事部長

   ・採用室長

   ・人材育成課長

   ・人事戦略課長