雑記36

36…普通だなっ!

この間、久しぶりに弟とキャッチボールをしに行ったのですが、ブランクが長すぎてボロボロでした。カーブはすっぽ抜けてとんでもない方向に飛んでいくしスクリューは引っかけてだいぶ手前でワンバウンド。フォークは辛うじて相手の取れるところに行くものの変化せず単なる棒球に。腕の振りを直す必要がありそうです。

真っ直ぐも威力が全く出ない糞ボールでした。やはり久しぶりすぎて「どの程度の力で腕を振ればいいのか」がまったくわからない状況でした。強く振りすぎて肩の筋肉痛めるのが怖いんですよね。今後もキャッチボールに付き合ってくれる人を募集していく。

軟式ボールが使い込んだ球しかなくて縫い目が低かったのも良くなかったんですよね。うまく指がかからなくて抑えが効かない。新しいボールを買おうと思いました。

職場の飲み会ってけっこう辛くないすか?サークル仲間や高校時代の友人と飲むのとはわけが違いますから、常に社会人としての仮面を顔に貼り付けておかなければなりません。飲み会も仕事の内とはよく言ったものですが、それなら超過勤務手当をくれ。

この間は23区合同研修のグループ飲み会とやらに誘われたので行ってきました。もはや職場の飲み会ですらねえ…。

その時に「あなたは○○区の○○さん。あなたは××区の××君」ってな感じで来てたメンバー全員の所属と名前を言ったら驚かれたんですけど、普通4~5人くらいの所属と名前くらい覚えません?それともアレか、私がそういうのに興味ない奴だと思われてたのか?残念ながら私は一度見たものはある程度頭に入ってしまうタイプです。腐っても学者の子なので。

隣の自治体の職員の女の子は、出身中学が私の母が昔勤めていた中学校の隣の中学でした。それどころか岬ちゃんと同じ中学校でした。学年こそ違いましたが彼女は岬ちゃんのことを覚えていました。世間は狭いものですねえ。というか後で岬ちゃんに聞いたら彼女の兄は岬ちゃんのクラスメイトだったそうです。こわっ…

先週は久しぶりにしょかさんに会いました。しかしファミレスの座席が微妙な感じだったのであまり話が出来なかったのが惜しまれます。後輩の大学院生A君は期限付きながら助手に採用されたそうです。めでたしめでたし。これからもカスみたいな教授のクソみたいなハラスメントに負けず頑張ってほしい。

飲み会の場で「君の名は。観ましたか?」って聞かれるの、今年の一種の社交辞令になってるんですね。私も聞かれたので「彗星をウルトラ兄弟が光線で破壊するシーンで流れた『ウルトラ6兄弟』のアレンジが良かったです」「最後に糸守を直撃しそうになった隕石を前に郷隊員が変身ポーズをとって変身するシーンに感動しました」「やはりウルトラマンノアは神」など当たりさわりのない感想を述べておきました。

君の名は。』の感想なんか聞かれても、私としては「新海先生は今回は頑張ったんじゃないですか」くらいしか言うことがないわけですよ。せめて『シン・ゴジラ』の感想を聞いてくれればゴジラオタク歴25年のキャリアを活かしていくらでも喋れたんですけどねえ。

最近のアニメは主人公が強いから問題なのではなく、敵が無能すぎるのが問題だってそれ一番言われてるから。異世界ものなんて主人公も大して有能じゃないのに敵がプレミアムガイジだから万能主人公ものよりつまらないんですよね。

おわり

第30話

先日のガサ入れの時に、私はうっかり杖を破損させてしまっていた。榎谷と魔法の撃ち合いになった際のオーバーワークが原因だろうか?修復で何とかなると思っていたのだが、魔法用具に詳しい宮前さんに見せたら「中が折れてるので無理です。買いなおしてください」とバッサリであった。何のためのカーボン杖なんだ…と私は若干悲しい気持ちになった。

「島畑先生の杖の核は何が入ってるんですか?」

魔法使いの杖は材質とは別に特殊な核が入っているのである。興味深々といった様子の詩織ちゃん。私は主査時代に魔法学校の初等科で非常勤講師をやっていたので、詩織ちゃんは一応教え子だったりする。

「核はケルベロスのチ○コの骨ですね。材質はカーボンです」

ケルベロスは犬系の怪物なので、当然陰茎に骨があるのだ。それを聞いていた島村さんと鹿島さんは顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。

ちなみに杖の核は人気の銘柄とそうでないものがある。魔法師に人気なのは不死鳥の尾羽だったり龍の髭だったり、変わった所ではクラーケンのカラストンビ(嘴)なんかも水系統の魔法を使う人には好まれる。植物魔法を使う白崎さんの杖の核は世界樹の維管束である。ちなみに不死鳥の尾羽はけっこう流通量が多く、炎魔法の使い手の杖は大抵これを核にしているが、似た種類の鳳凰の尾羽は稀少であり、価格は100倍くらい違うらしい。ケルベロスのおち○ぽの骨はあまり人気がないのでかなり安い。

「そんなわけで新しい杖を作ってきました」

翌日、私は新しい杖を受け取ってから出勤した。材質は先代と同じカーボン、長さは40インチ(約102センチ)と従来のものよりも相当長くなった。やはり16インチではカーボンのしなりを活かしきれなかったのである。核には宇宙鉱石『ウルトラの星』を削り出した物を採用した。先日の銀色の巨人の一件の際、早田教授から(事実上の口止め料として)もらったものである。これで光線魔法の威力が向上するだろう。

自席で新しい杖をビュンビュン振り回しているところへ本庁からファックスが送られて来た。そのFAXを読むために私が手を止めたので、それまで近寄れずにいた葵ちゃんはすかさず私の膝の上に乗ってきた。

「吸血鬼…吸血鬼ですか。今時の吸血鬼がトラブルを起こすとは思えませんがねえ…」

葵ちゃんを膝の上に乗せたまま私は呟いた。葵ちゃんも首をかしげている。現在、科特庁の戸籍課に登録されている吸血鬼は9つの家系とルーマニアからの帰化者を合わせて111世帯165人いる。大多数は定職に就いており、また人に害のない安全な吸血方法が確立されているため、吸血鬼とヒトのトラブルは最近ではほとんど発生していない。

「とりあえず支署にお越しいただきましょうかね」

私は秋山係長とホリ隊員、そして坂上に実調の指示を出した。庭では鹿島さんが陽ちゃんとフリスビーで遊んでいた。よく見ると鹿島さんが投げていたのは白崎さんが育てていたクソデカ蓮の葉だった。私は白崎さんが怒るのでは、と心配していたが、優しい白崎さんは二人が遊んでいるのをニコニコしながら見ていた。

「詩織!冷蔵庫に入れといた私のヨーグルト食べたでしょ!」

宮前さんが詩織ちゃんを追いかけている。

「蓋に『宮前』としか書いてなかったから私のだと思ったんだもん!」

詩織ちゃん、逃げながら反論する。この姉妹は仲が良すぎるのでいつもこんな感じである。宮前さんも別に本気で怒っているわけではないので、大抵1時間もするとうやむやになっている。

で、1時間が経過し宮前姉妹の痴話喧嘩がうやむやになった頃に秋山係長らが問題の吸血鬼を連れてきた。戸籍で確認したところ年齢は22歳。軽くウェーブの利いた黒髪と、吸血鬼に特有のルビーを思わせる紅い瞳が特徴的な女性だ。名を黒羽朱里と言い、黒羽家の中では傍流の家の娘であった。

「あなたが通った後通行人がバタバタ倒れていったという報告が来ています。吸血によるものですか?」

私は思考の読み取りに集中しているので、聴聞は洲本さんに一任した。

「いや、違うんです!誤解ですよ」

やや慌てたように身振り手振りを交えて反論する黒羽嬢。どうやら嘘はついていないようである。

「アレは私の体質が原因なんです。先祖にサキュバスがいるんですけど、その性質の一部が隔世遺伝してしまったみたいで」

その話は私も非常に興味がある。吸血鬼とサキュバスの混血が可能だったのか。まあヨーロッパに渡った狐娘の中には狼男と結婚して子供を設けた例もあるし、鬼と雪女が結婚して家庭を築いた例もあるので、亜人系同士なら遺伝子は意外と融通がきくのかもしれない。

「私は吸血しなくても普通の食事で生きられるんですけど、ニンニクを大量に摂取しないと疲れやすい体質なんです」

そもそも吸血鬼はヘモグロビンの自力生成が苦手なので血を摂取しているだけで、何等かの変異でヘモグロビン生成能力を持った吸血鬼は吸血を必要としないのである。ちなみに吸血鬼がニンニクを食べられないというのは誤りで、昔ヨーロッパの吸血鬼族の迷信として「ニンニクを食べると死ぬ」というものがあっただけだ。銀がダメというのも迷信である。銀の弾丸で心臓を撃たれたら吸血鬼じゃなくたって普通に死ぬ。

「でもサキュバスの力を持っているので身体から出るニンニクのにおいでさえ人を惹きつけてしまうんですね…倒れた人達は私の発するニンニク臭を吸って精気を無くしただけなんです」

黒羽嬢も女性であるから、こんな話をさせられるのはさぞ屈辱だろう。私も聞いていて何だか居た堪れない気持ちになった。匂いの少ないニンニクを食べろとかそういうレベルの話ではない。

「それならいい方法がありますよ」

様子を見ていた白崎さんが入ってきた。庭に生えていた薬草のような何かを持ってきている。その葉っぱを2枚3枚とちぎった白崎さん、それを粉状に挽いたものをドリップして黒羽嬢に勧める。

「何それ?脱法ハーブ?」

スギウラさんはいつの間にそんな日本語を覚えたのか…アメリカンコーヒーを片手にアンチョビのサンドイッチをほおばるスギウラさんはとてもじゃないが元イギリス人には見えなかった。

「違います!脱法ハーブじゃなくて脱臭ハーブです」

珍しくムッとした表情をする白崎さんは可愛かった。どんな臭いものでも脱臭できるのが特徴だそうだが、栽培はとても難しいらしく白崎さんは魔法を使って維持しているらしかった。

そんなわけで黒羽嬢には脱臭ハーブを定期的に送ってあげることになった。これにて一件落着。それにしてもこの脱臭ハーブ、飲み会の後とか餃子食べた後に便利なのではないか?と思うのだが白崎さん曰く「栽培の手間を考えたら困っている人以外には使えません」ということであった。

結局この日、私の新しい杖が威力を発揮する機会はなかった。だがその方がいい。平和である証拠だからだ。

つづく

雑記35

広島が出ている物珍しさから日本シリーズを実況しているオタクの多いサークル員リストを見ながらブログを書いています。去年のソフトバンクーヤクルトは見向きもしなかったオタク達が広島には食いついちゃって、私は日本シリーズは1999年のダイエーホークス初出場からずっと見ています(見苦しすぎる古参アピール)。いや前年の横浜ー西武も一応見てましたね。

まあ試合内容はけっこう白熱してて面白いんじゃないですか。贔屓チームが出てないので割とどうでもいいですが。一応パリーグのハムに勝ってほしいかな?

咲の実写化のキャスト発表を見ました。まあ演じる人はね、ぶっちゃけ誰でもいいんすわ誰でも。興味ねえし。ただ制服の生地が安っぽくてコスプレAVみたいなのは何とかなりませんかねえ?あまり制作予算がないのかもしれませんが、今日日コスプレイヤーだってもっといいの着てるでしょ。

職場でウンコをしていると天啓のように話が閃く、というのは以前にも申し上げたような気がします。多分その反動でさかこ君にトイレの呪いがかかったんだろうなあ。私がトイレでひとつアイデアを思いつくたびにさかこ君のトイレは逆流している…?

実習生が来る話は職場の窓口にたま~に来るJKを見ていて思いつきました。なんやコイツ…。でも宮前さん妹は話を書き始めた当初からいつか、どっかで出そうと思っていました。いじわるをしてはいけない。冷静に考えて街中に普通につめウンが出る町ってヤバくないですか?うわあ頑張ろう、町を綺麗にしよう。

鷺澤文香と宮永咲って誕生日同じなんですね。文香の出身地も長野県、読書が好きなところも共通していてそこはかとなく縁を感じます。シンデレラガールズの女子大生ズはなんでこんなにエロいんすかねえ~。レズなんか必要ねえんだよ!おちんぽジョイナスがいいんだよ!

渋谷凛は8月10日生まれ、野獣の日などと言っていたら実は五十嵐響子も8月10日生まれでした。野獣のような性欲の持ち主かもしれない(願望)。実はアレ、島村卯月が4月生まれで小日向美穂本田未央も12月生まれなので、しまむーの絡むユニットは誕生日がきれいに分散するようになってるんですね。やりますねえ!

ツイッターで駅弁の話をしていたら列車の旅をしたくなりました。在来線のグリーン車で弁当と飲み物を買って…最高やな。東海道本線の各駅で売られている鯵の押し寿司がなんといっても一押しですが、焼き鯖寿司や鱒寿司もいい。豊橋駅のいなり寿司も捨てがたいですね。私は九州暮らしが長かったのでかしわ飯(いわゆる鶏飯)が好きです。博多駅折尾駅鳥栖駅…どの駅も少しずつ違いがありました。飲み物は酒でもソフトドリンクでもいいです。旅を楽しむなら緑茶がいいですがトイレが近くなるのがネックですね。

しょかさんもさかこ君ももっと目立て目立て目立て!ブログ書いて(提案)

おわり

 

第29話

「実習生を受け入れてほしい」

八王子にある魔法学校から新宿支署へそのような要請が来たのは、今年が初めてであった。それは魔法学校が科特庁の管轄下に入り、旧来の指導者層の入れ替えが完了した証左でもあった。

魔法学校は元々魔法庁の権益の象徴のような存在だった。教師も経営陣も家柄で決まり、名家の子女は常に優遇されてきた。そのため科学特捜隊の構成員として魔法庁を吸収した私達が真っ先にメスを入れたのがここであった。紛争時に魔法庁側の中心にあった家柄の人間を次々と追放し、思想教育を廃止させた。科特庁の支署に実習要請があったのは、ようやくその成果が出たということである。

「実習生だと?まだ新人の一本立ちも出来てねえのに?」

米長コマンダーは微妙に後ろ向きである。支署の責任者という立場上、受け入れに慎重にならざるを得ないのは当然といえば当然ではある。

「新人は一本立ちはしてないですが指導役いなくても最低限の仕事は出来てますから大丈夫でしょう。矢吹さんが来て懸案だった係長も埋まりましたし」

私がとりあえず説得に成功したので、実習生が来ることになった。「とりあえず日本語が通じなくて困ることがなければいいな」と秋山係長。民間企業に勤務していた頃に外国人実習生を巡ってひと悶着あったらしい。くわばらくわばら。

「実習生の指導役は矢吹係長にお願いします。島村さんの指導は熊谷さんがやってください」

朝会で役割分担の話をすると矢吹さんは若干不満そうな顔をしていた。私も米長コマンダーも気づかないフリをした。

新宿支署に割り当てられた実習生は3人だった。米長コマンダーは「えっ1人じゃねえのかよ」と驚いていたがこの人資料に目を通さないからなあ…。私が学校から受け取った資料にはちゃんと3名と書かれていた。

1人目は一之江ありす、16歳。紛争で滅亡した一之江家の分家筋の娘である。彼女の父親は宗家と折り合いが悪く、紛争時に中立を表明して参加しなかったことで家を滅亡から守った。明るめの茶髪を二つのおさげにまとめた小柄な少女で、育ちの良さそうな雰囲気が全身から出ている。

2人目は鹿島アリス、16歳。父は日本人、母は英国人というスギウラさんと同じ組み合わせのハーフだ。髪色は金というよりもクリーム色に近く、瞳は緑色をしている。どこからどう見ても英国貴族の令嬢だが新座生まれの練馬育ちで、魔法学校に入るまで魔法に触ったことすらなかったという。好物は餃子で趣味はハゼ釣りらしい。完全に東京の一般庶民の子供である。

3人目は宮前詩織、17歳。名前から察しが付くとは思うが宮前さんの妹である。赤い縁取りの眼鏡をかけているところは宮前さんと共通しているが、宮前さんが明るい栗色の髪なのに対し妹の方は艶のある黒髪だ。使う魔法のスタイルは対照的で、姉のような現代式魔法ではなく古典的なスタイルの魔法使いである。

「で、実習って何やんの?実調には免許ないと出せねえだろ」

緊張した面持ちの3人の前で、米長コマンダーが私にひそひそと話しかけてきた。

「一応、実習中は仮免許が出ていますから大丈夫です。まあ実調は基本的に見学だけになるでしょうけど」

そんな私達のやり取りを横目で見ながら、矢吹係長は実習生一人ひとりに声をかけて回っている。会議室を出て執務室のあるフロアに降りると、実調から戻ってきたメンバーが自席に座って談笑していた。

「あ、お姉様!」

詩織ちゃん(私もこの子とは彼女が幼児だった頃から面識があるのでこう呼んでいる)は顔を輝かせて宮前さん…ではなく熊谷さんに抱きついた。事情を知らないメンバー、神木田さんや島村さんは呆気に取られている。当の宮前さんは慣れているので、熊谷さんに抱きついた詩織ちゃんを引きはがしている。

「こら詩織、本当のお姉様への挨拶は?」

「ちょっとお姉ちゃん痛いって!痛い痛い!いじわるをしてはいけない」

この姉妹はいつもこんな調子である。抱きつかれた熊谷さんも慣れているためか、ため息を一つ吐いた以外には特にリアクションはなかった。他の実習生二人、一之江さんと鹿島さんは若干引いている。このくらいで引いていては科特庁の職員は務まらないのだが、まあ実習をやっていれば慣れるだろう。

「統括、落合に詰云が出ました」

新庄係長が報告してくる。詰云くらいなら、実習生に経験を積ませるのに丁度いい。私はさっそく矢吹係長に、実習生3人を連れて行くよう指示した。

新宿区の端、中野区にほど近い落合の街に皆が到着すると、詰云は細い路地をウロウロしていた。矢吹係長はひとまず3人に詰云を倒させることにしたらしく、近くの街路樹の上に登って様子を見守っている。3人の中では年長の詩織ちゃんが先陣を切った。

「妖怪爪ウンコ、覚悟~!」

叫ぶなり杖を振り、魔法を展開する。彼女が得意とするのは、熊谷さんと同じく氷系統の魔法である。青白い光線が詰云めがけて飛んでいく。その様子を後ろで見ていた一之江さんと鹿島さんは「宮前先輩、お下品…」と呟いていた。

しかし詰云は凍らなかった。詩織ちゃんの光線の収束率が足りていなかったのだ。この世のものとは思えない、おぞましい顔で近づいてくる詰云。仕方なく鹿島さんが魔法を展開し、高圧水流で詰云を押し流す。彼女は島村さんと同じく水系統の魔法を使うのである。高圧水流で30メートルくらい吹っ飛ぶ詰云。

「汚物は消毒ですっ!」

えへん、と胸を張る鹿島さん。だが詰云の生命力は尋常ではない。全身を汚物でコーティングした最終形態に変身し、猛スピードで突っ込んでくる。そのあまりにも汚い姿を目の当たりにした3人は、もう魔法を展開することも出来ず泣きそうな顔で突っ立っている。これは危ない。

それまで傍観に徹していた矢吹係長が動いた。アーチェリーに使う弓のような魔術弓で魔術コードを彫り込んだ木製の棒を放つ。彼女の得意とする魔法は風系統の魔法だ。飛んでゆく木製の棒の周囲に鎌鼬のような烈風が巻き付き、詰云を次々に貫通していく。ものの2射か3射で詰云はバラバラになった。

「はい今日の実習は終わりです。帰るわよ」

矢吹係長は呆然と立っている三人娘に声をかける。3人とも金縛りが解けたようにその場にへろへろと座り込んだ。こうして実習生の最初の実戦経験は無事に終了したのであった。支署に戻ってきた3人は報告書の書き方をスギウラさんから指導されていた。明日には報告書が無事提出されるだろう、と私は期待を抱いて、夕飯を食べる店を物色するべく庁舎を出た。

つづく

 

 

取り急ぎ、ドラフトの感想

まさか田中正義の抽選が当たるとは…正直に言うとドラフト1位は先発でも中継ぎでも左投手を取って欲しいと思っていたのですが、田中に関しては間違いなく今年の候補ではナンバーワンの選手でしたから、入札して正解でしょう。こういう選手はポジションに関係なく取れる時に取らないといけません。

入札1位に関しては、下位のチームは手堅く一本釣りを狙ってきた感がありました。中日と横浜は慎重に行き過ぎて柳で重複してしまいましたが。オリックス山岡は入札で取るのは微妙という声もありますが、オリックスはどんなに勝てていない時期でも社会人投手の目利きは確かなので活躍を期待していいと思います。

ヤクルト寺島、西武今井、楽天藤平は甲子園を沸かせた本格派投手。完成度では寺島が頭一つ抜けています(個人的にはホークスには左腕の寺島に行ってほしかった)が、今井も藤平も基礎体力が付けば早くから頭角を現すと思います。阪神大山は入札1位は疑問符が付きますが、打てて三塁を守れる選手は中々出てこないので確実に取りたかったのでしょう。

しかし阪神が安全運転で大山の確保に走ったおかげで、入札1位本命と見られていた佐々木が外れまで残りました。そのおかげで抽選負けのチームは皆佐々木に行きましたね。結局引き当てたのはロッテでした。涌井、石川に次ぐローテの柱になるのではないでしょうか。

再々入札は流石にばらけました。左腕の育成に自信のある横浜は濱口、二塁手が泣き所の巨人は吉川、左腕不足の日本ハムは堀、リリーフの枚数を確保したい広島は加藤と、どのチームも適材適所の指名をしていて感心しました。

ホークスの2位以降を見てみると、2位は古谷投手。待望の左投手ですが素材型なので、1軍で活躍するまでには時間がかかるでしょう。4年前に同じく素材型で指名された左腕の笠原がようやく1軍を伺うところまできているので、古谷も4年くらいはかかるかもしれません。

3位4位は高校生野手を指名。そんなに高校生ばかり取っている余裕があるのか?と言いたいところですが、他球団も3位以降では大卒、社会人野手をあまり熱心に取っていなかった所を見ると今年は野手自体不作なのかもしれません。

逆に投手は豊作でした。全体的にリリーフの人材難もあってか大学生・社会人投手は2位~3位くらいでバンバン指名されていましたね。その反動か高校生投手はけっこういい選手が下位まで残っていました。

ドラフトの本当の成果がわかるのは5年後です。

第28話

 

大手町にある科特庁の本庁ビル。高層ビルと呼んで差し支えないその建物内の会議室に、東京都内の各支署から招集された男達が集まっていた。新宿支署からは私の他に豊之内・第1係長と秋山・第3係長。北支署からはいつもの土方署長補佐と中須田謙介・第1係長の両名。

中須田は元ブラック企業社員で、精神を病んで転職してきた男である。その過去から、魔法少女や超能力者に過酷な労働を課すブラック企業を次々と摘発している優秀な男である。その苛烈な取り締まりに対する反感から、取り締まられるブラック企業側からは「戦車勃起メタボ」と呼ばれている。精神を病んだ結果、戦車を見ると勃起してしまうようになった悲しき男なのだ。しかし退魔師としての腕は確かであり、土方とのコンビで異能者を食い物にする悪い奴らを日夜クソまみれにしている。

江戸川支署からは秋吉亮(あきよしあきら)署長補佐が招集されている。彼も私達と共に10年前の紛争を戦ったベテランで、実力面でも豊之内に次ぐ強力な戦鬼だ。年齢面では33歳と、現役の戦鬼の中では比較的年長の部類に入っている。江戸川支署からはもう一人、久保田糸哉(くぼたいとや)・第1係長も招集されている。

世田谷支署からは三浦道朗(みうらみちお)・第4係長が来ている。彼は紛争終結に伴う関係機関の再編後、つまり独立機関『猛士』ではなく科特庁戦鬼課で名跡を取得した戦鬼第一号である。今や少なくなった斬撃系の戦鬼である。

「皆さん遠路はるばるご苦労様です」

挨拶と共に打ち合わせの幕を開いたのは、これまた毎度お馴染みの神楽坂庭夫統括係長である。普段は本庁の監理課庶務係に勤務しており、各支署への実調の依頼や人員派遣の取りまとめを担当している。

「今日この面子に集まってもらったのは、ちょっとした組織の本部に強制捜査を行う必要性が生じたからです。荒事に慣れている皆さんほど適任の人材は本庁だけでは揃えるのが難しくてね」

神楽坂は軽い調子での溜まったが、他の面子は皆一様にざわついた。

違法行為をしている組織の摘発は、特定の分野に限っては確かに科特庁がその権限を有している。しかし通常は本庁のG5チーム(超能力者の実働部隊)を投入することが多いし、大抵は警察と合同で行われる。科特庁単独で、それも私達のような支署構成員が担当するのは異例中の異例だ。

「結構ヤバい所なんですか?」

私の質問に、神楽坂は首肯した。

魔法少女の育成と運用、と言えば聞こえはいいが全て無届でやっている所です。本庁の内偵により無賃労働の強要、命の危険を伴う任務への強制従事、性的暴行、魔法師至上主義の前時代的な洗脳教育などが確認されています」

魔法少女というのは定義が難しい存在であったが、現在は満18歳に達していない、魔法師としての資格免状を取得していない女性の魔法使いがそう呼ばれることが多い。資格免状を持っていなくても魔法能力を行使すること自体は可能であるが、未成年であるため各種法律により厳重に保護されており科特庁への届け出が義務付けられている。その法律の煩雑さから無届で魔法少女を使役する業者は後を絶たず、科特庁は摘発に力を入れている。

「人間の屑がこの野郎…!」

憤りを露わにする秋吉。他のメンバーも静かな怒りに燃えているようだ。

「元締めは判明してるんですか?」

私の質問に、神楽坂はこれまた頷いた。

「ええ、元締めは四場家当主の四場二郎。私達が過去の紛争で倒した四場一郎の弟ですね。紛争後の協議で四場家は財産の大部分を差し出して存続が認められたんですが、どうやら反省してなかったみたいですね」

神楽坂の言葉にも毒がこもる。魔法師は家柄を重視するため、力のある家柄はかなり財産を貯め込んでいた。四場家はその中でも五本の指に入る名家だった。熊谷家や宮前家が地方大名の家臣レベルだとしたら四場家は外様の有力大名レベルの権勢を誇っていたのだ。10年前の紛争で負けるまでは。

「やはり特権の味を覚えた奴はクソや。糞が…キモっ!」

土方も思わず毒づく。隣に座っている中須田も憤りの表情を浮かべている。

「けっこう深刻な話だゾ。紛争に負けて恭順の意を示していた四場家がそういうことをするということは科特庁の転覆を狙ってるかもしれないゾ」

三浦係長の懸念もまるっきり絵空事とは言い切れない。四場家に限らず紛争時にホルデモット信者として魔法庁を牛耳っていた、格の高かった魔法師の家は取り潰しや財産没収の上魔法庁から追放となっている。当然、魔法庁の業務を引き継いだ科特庁からも追放されたままだ。自分たちの傲慢さや特権を貪ってきた事実から目を背け、逆恨みしている者がいてもおかしくはない。

「そういうわけですから、今回は一刻を争います。すぐに出撃の準備を」

神楽坂の言葉で、私達は一斉に椅子から立ち上がった。

問題の施設は杉並区と世田谷区の境目らへんにあった。外観は古めかしい洋館である。元々は一之江家の所有物であったが、過去の紛争の中枢を担った一之江家は当主以下一族が全滅し、この洋館は現在無人になっているはずである。

「科特庁だ。大人しくしろ!」

神楽坂が先陣を切って怒鳴り込む。中にいた魔法少女達はキョトンとしていたが、それが自分たちの敵として教え込まれた科特庁の構成員であるとわかると一斉に攻撃魔法を撃ちこんできた。成人した魔法師のそれに比べて精度は粗いが、若さ故に出力はかなり大きい。街一つ焼けそうな攻撃呪文の束が神楽坂に向かい―空中で全て解れた。

対抗魔法。呪文コードは数式のようなものであり、「等しい値のコードを引くとゼロになる」という仕組みを利用した、魔法を打ち消すための魔法である。瞬時に対象の魔法の呪文コードの性質や大きさを把握する必要があるため、日本で実戦レベルの対抗魔法が撃てるのは神楽坂しかいない。しかも神楽坂は打ち消した魔法のエネルギーを次の対抗魔法のエネルギー源に充てるという技術を会得しているため、彼を魔法の撃ち合いで仕留めることはほぼ不可能である。

何が起きているのか理解できないまま、魔法少女達は魔力を使い切ってどんどん倒れてゆく。神楽坂たちは苦り切った表情を浮かべ、気を失って倒れた魔法少女達を次々と収容していった。

洋館の2階では性的暴行の下手人と私が戦闘を繰り広げていた。榎谷夏音(えのたにかのん)、旧魔法庁時代でさえ女癖のあまりの悪さに鼻つまみ者扱いされてきた男だ。私の顔を見るなり殺人魔法を撃ってくる榎谷。私は杖を翻して白い光線魔法を放ち、それを相殺した。

その隣の部屋では、今まさに虐待されていた魔法少女を秋山係長と豊之内係長が救出した所であった。榎谷の作った悪趣味な虐待用魔法人形を秋山がバットのような得物で殴るとたやすく砕け散ってゆく。退魔師の武器には文字通り魔を祓う力がある。秋山係長のバットのような何かで殴られた魔法人形は、殴られた瞬間に内部の魔術コードが消失してしまうのだ。

「…もう殺してくれませんか?」

助けられた魔法少女は自分の置かれている状況に嫌気が差したのか、そんな台詞を秋山と豊之内に投げかける。

「嬢ちゃんはさあ、この屋敷のゲスどもに洗脳されて使い倒されて、死ぬまで弄ばれる運命だったんだよ」

秋山係長が語る。

「でも俺らが来て嬢ちゃんは助かった。この屋敷のゲスどもは俺らの仲間に潰されて全滅だ。これはつまりさあ、神だか仏だかわからん奴が嬢ちゃんに言ってるんだよ。運命に抗えってさあ」

秋山係長が語っている後ろでは、闘鬼完全装甲態が押し寄せる魔法人形を次々と灰にしている。秋山の言葉を聞いた魔法少女は依然憔悴しきっているが、死への憧憬がなくなったことは目を見ればわかる。秋山は彼女を連れて、彼女の仲間たちが収容されている科特庁の車両へ向かった。

「島畑、裏切り者米長の手下が!」

榎谷は憎悪も露わにどんどん攻撃魔法を撃ちこんでくる。そもそも魔法師至上主義を主張して米長さんらウィザードの離反を招いたのは彼らなのだが、特権意識に凝り固まった彼らには事実を客観視する能力などない。私は攻撃魔法を一つ一つ弾いていたが、いきなり榎谷の前で杖を床に置いて見せた。

「裏切り者め、ようやく罪を自覚したか!」

榎谷は喜色満面の表情になり、最大出力で攻撃魔法を放つ。最大出力の殺人光線は榎谷の杖の先から勢いよく飛び出し―榎谷の心臓を勢いよく貫通した。

「呪文コードのベクトルくらいちゃんと設定しなきゃダメじゃないですか」

私は半笑いのまま榎谷の死体にそう吐き捨て、部屋を後にした。怒りや憎悪は魔法使いにとって大敵である。冷静に目の前の私と対峙していれば、榎谷も自分の呪文コードのターゲティングが書き換えられていたことに気づいていただろう。今更言っても遅いのだが。

地下室では秋吉と、秋山と別れて合流した豊之内が敵の元締め―四場を追い込んでいた。秋吉の変身した暁鬼(アカツキ)と闘鬼、二人の強力な戦鬼はじりじりと四場を追い詰めていく。四場も次々に攻撃魔法を放つが、この二人の装甲を貫けるほどの威力はなかった。

「お前みてえな人間の屑は俺が直々に処分してやる」

暁鬼はそう言い放つと同時に四場を殴る。四場は5メートルばかり吹っ飛び、地面を転がった。その瞬間に部屋の四方八方から刀剣が暁鬼めがけて飛んでくる。四場が魔法を使って地雷のように仕掛けておいたものだ。だが小型の刀剣はやはり暁鬼の装甲を貫通せず、大型の物は闘鬼に全て撃ち落された。

四場は半狂乱になり、刃物を以て暁に突進してゆきー暁鬼の打撃を顔面にまともに受けた。頭部が胴体からテイクオフした四場は、今度こそ完全に息絶えた。かくして強行捜査は終了し、元締めをはじめ経営側の連中は大部分が死亡、残ったものは土方と中須田にクソまみれにされた上で逮捕された。保護された魔法少女達は14名にのぼった。全員私の手で洗脳教育された記憶と性的暴行を受けた記憶を消除され、本庁に一時的に保護されることになった。

大部分は偶発的に魔法を使えるようになった一般人の子だったが、中に紛争で取り潰された五日市家の子女もいたことは私達を暗い気分にさせた。旧魔法庁執行部連中はかつての身内さえ道具として扱っていたのである。また、一人だけ白人の娘がいたため私達は国際問題化を懸念したが、彼女の両親は日本に帰化しており、戸籍上は日本人であったのでこれは杞憂であった。

「今回保護された娘達は魔法学校へ編入させました。元々身寄りはない子ばかりでしたからね」

神楽坂の報告を受けたのは、事件から4日ほど経ってからであった。数年後には彼女たちの中から魔法師の資格を取得し、科特庁で活躍する者が出てくるだろう。そうなれば、私達が苦労して犯罪組織を潰した甲斐もあったというものである。

つづく

 

 

第27話

秋も本格化してくると、飲み会の様相も変貌してゆく。冷奴や刺身を肴にビールをバカスカ飲むサマースタイルは鳴りを潜め、おでんなどが卓を彩るようになるのである。

そんな秋本番の金曜日の夕方。高田馬場の片隅にある居酒屋では、新宿支署女子会なる恐怖の集会が開かれていた。私はその余波を受けて支署の宿直室で葵ちゃんら下宿勢のお守りをすることになっていた。

イヌ科動物は育てた者を親として認識する習性があるというが、私に対する葵ちゃんの態度も、異性として好意的というよりは親に甘える子犬に近いものがあるような気がする。本当の所は不明だが、茜ちゃんも陽ちゃんもテレビを観ながら笑い転げているのを尻目に葵ちゃんは私の膝の上に座ったままウトウトしていた。

「乾杯~」

居酒屋では恐怖の?女子会が始まっていた。大体この手の職場の飲み会では一杯目はビールというのが相場だが、女子会だけあって飲み物はけっこうバラバラである。チューハイ系を頼む者、型通りビールを頼む者など様々である。熊谷さんは正月のお屠蘇で二日酔いするレベルにアルコールに弱いので一杯目からジンジャーエールであった。

「豊之内係長ってさあ、時々意味わからないこと言い出すよねえ」

酒が回ってきたのか、矢吹係長が唐突に同僚批判を始める。ちなみに豊之内が不思議発言を連発するのは今に始まったことではない。

「まあでもセクハラとかするわけじゃないですし…」

フォローに回る白崎さん。

「あ、私は昔髪の毛を触られそうになりました」

白崎さんのフォローをぶち壊す熊谷さん。今でこそ彼女の綺麗な黒髪は肩のあたりまでしかないが、ちょっと前までは腰に届くくらいの長さであった。豊之内は昔から長くて綺麗な黒髪の女性が大好きらしく、ことあるごとに熊谷さんにちょっかいをかけていたのは事実である。

「意味わからないといえば坂上くんもよくわからないよねえ」

話を切り替えにかかったのは宮前さんだ。坂上が一般人にはおよそ理解しがたい行動をとるのも、これまた今に始まったことではない。豊之内も坂上も戦鬼として一人前になる過程で、常人ならば精神崩壊するほど過酷な修行を積んでいる。その結果、もしかしたら精神構造が普通の人と若干違うのかもしれない。

「たしかに勤務中にお酒を飲んでるのはちょっと普通じゃないですね…」

さすがの白崎さんもフォローできない。

「まあ二人とも戦鬼としては超一流ですからね、プライベート面はセクハラ以外は大目に見てあげましょうよ」

見かねたのか洲本さんがフォローに入る。

事実、豊之内も坂上も戦鬼としては一流どころか超一流である。豊之内は「打撃鬼は空中戦が出来ない」という常識を初めて打破しただけでなく、長い戦鬼の歴史の中でも文献にわずかに記されていただけだった完全装甲態を使用可能たらしめ、現役最高の戦鬼と呼ばれている。既に35歳と大ベテランの領域に入っているが、彼の直弟子で横須賀支署勤務の鋭鬼(エイキ)、同じく品川支署勤務の弾鬼(ハジキ)ら20代でキャリア全盛期の戦鬼たちでもまるで敵わない圧倒的な実力を誇っている。

坂上も負けていない。彼は史上最年少となる17歳10か月で戦鬼の独立名跡『盃鬼』を取得した天才である。豊之内でさえ『闘鬼』の名跡を取ったのは20歳の時だから坂上は相当に早い。ちなみにこの戦鬼の名跡は既存の物を襲名するのが一般的(豊之内は14代目闘鬼)だが、盃鬼は前例がないため坂上が初代である。

「まあでも、豊之内係長じゃなくても熊谷さんの髪は触りたくなるんだよね~めちゃくちゃ綺麗だからね」

と言いながら熊谷さんの黒髪をいじくりまわしているのはスギウラさんである。スギウラさんは別にレズっ気があるとかそういうことはないのだが、英国の厳格な男女別学で育てられたせいか女性同士の距離感が近すぎることが往々にしてある。

「ヒッやめて触らないで」

咄嗟に身をよじる熊谷さん。

「セクハラやめい」

スギウラさんを小突く矢吹係長。

「統括係長ってどういう人なんですか?」

神木田さんの質問に、一瞬場が答えに詰まった。

「ん~、島畑さんは10年前からずっとあんな感じだよ?何か遠謀深慮を巡らしているような顔して特に何も考えてないというか。部下を怒ってる所は見たことないけど敵には割と情け容赦ない人だよね」

とは矢吹係長の私に対する評。容赦がない。

「あの歳で統括係長だからけっこう給料貰ってるでしょうに、それでも独身なんだから、余程異性との出会いに恵まれなかったんでしょうね~島畑さん」

これは洲本さんの評。同い年で同じ統括係長の土方も神楽坂も独身である。というより我々の年代で既婚者の方が珍しい。秋山係長くらいである。

「最近は葵ちゃんに凄く懐かれてますよね。正直そこだけは羨ましいです」

と言う熊谷さん。熊谷さんは犬や狐の類が大好きなので、こう言いたくなるのも当然であろう。ただ犬娘も狐娘も本能的に人間の男に寄っていく習性がある。

「秋山係長の奥さんってどんな人なんですか?」

と島村さん。皆だいぶアルコールが回ってきたのか、話題があっちへ飛びこっちへ飛びしている。

「秋山さんの大学の後輩らしいですよ。魔物と戦う時は無敵の秋山係長も、家では奥さんに尻に敷かれてるとか」

酒ががっつり回ってゴキゲンな新城係長。秋山係長の奥さんとは大学時代同期だったらしい。奥さんにペコペコする秋山係長を想像して笑い出す島村さんと神木田さん。

そんなこんなで好き勝手に新宿支署の男性職員批評が進み、飲み会が終わる頃には終電の時刻を大きく超過していた。店の前で音量を出し過ぎないよう気を配りながら一本締めを行い、徒歩圏内に自宅のある洲本さんは歩いて帰っていった。絶対自宅に帰るウーマンの矢吹係長はタクシーを拾って帰って行った。

残りの面子は宿直室を使うべく歩いて新宿支署へ戻ってきた。もう葵ちゃん達は寝静まっている。私は御一行が到着するのを待って銭湯へ向かった。熊谷さん達の記憶にアクセスして飲み会の様子を見ようかとも思ったが、自分の悪口を言われていたら嫌なのでやめておいた。深夜の銭湯は閑散としていた。

つづく