SSのような何か

第23話

龍ヶ守町から戻ってきてから数日間、私はまともに仕事ができる状態ではなかった。大規模な魔法を最大出力で撃った反動は思っていたよりも大きく、仕方なく私は職場のデスクに座ってじっとしている日々を送っていた。葵ちゃんが私の膝の上に乗ってきて、甘え…

第22話

龍ヶ守町は思いのほか遠かった。岐阜県内には岡田先輩の高山支署の他に大垣支署があり、名古屋の東海方面本部・豊川支署・四日市支署・賢島支署・熱海支署・駿府支署および浜松支署とともに東海方面部を構成している。高山支署は東海方面部では一番西北端に…

第21話

今年度の変わり目に本庁へ異動した神楽坂だが、自宅が新宿区内にあるため新宿支署へはちょくちょく顔を出していた。去年までの新宿支署の第1係長であり、現在は本庁勤務の統括係長となった彼は、この日も新宿支署へお茶を飲みに来て私達と他愛のない雑談をし…

第20話

「負傷した犬娘が運び込まれてきた」 科特庁の系列に属する中野区の病院から一報が入ったので、私はちょうど近くでの実調作業を終えたところだった秋山係長とホリ隊員に、その犬娘を新宿支署へ護送するよう指示をとばした。 犬娘。狐娘と同じく半人半妖の種…

第19話

定時を過ぎ、多くの職員が退庁した夜の新宿支署。その宿直室では、宿直担当のメンバーがワイワイやっていた。 「みなさん、今日も如如云と質糟の討伐お疲れさまでした。相変わらず臭くて汚い連中でしたけど、ああいうのをのさばらせないのが私達の使命でもあ…

第18話

「たまには葵ちゃんにもおつかいに行ってもらいましょうかね」 私がそう言うと、葵ちゃんは物凄く緊張した表情になった。尻尾がピンと直立している。姉の茜ちゃんもかなり心配らしく、私の考えに反対であると目線で訴えてかけてきている。 「そんなに気張ら…

第17話

緊急を通告するアラームが鳴動したので、私は宿直室の布団の中で目を覚ました。時計を見ると午前3時34分であった。しかし夜明け前だからといって無視するわけにもいかないので、私はTシャツに短パンというラフな服装のまま階下の新宿支署の設備を立ち上げに…

第16話

夏真っ盛りのある日の深夜、中野区と杉並区にまたがる大きな公園。息を切らしながら懸命に走る一人の少女の姿があった。中学生か高校生くらいだろうか。着物姿に草履を履いているが、夏祭りシーズンなのでそれほど違和感はない。決定的に特徴的なのは三角形…

第15話

「島村さんに庁舎内の案内をしてあげて欲しい」 他の二人の新人に比べてどうにも性格の大人しい島村さんは、確かにまだ新宿支署の内部構造を把握しきれていないようであった。それを心配したスギウラさんと洲本さんから、このような依頼が私の方へ転がってき…

第14話

統括係長という職層は中々に厄介である。私の場合、肩書は『署長補佐』となっており、科特庁の各支署には副署長が存在しないため実質的に署長に次ぐ、新宿支署職員の中の2番手という位置づけである。科特庁も官庁であるため、職層毎に給料と役職が割り振られ…

第13話

曇り空が広がり、猛暑が小康状態となっていたある日。いつも通り実調に向かう3名の職員の姿があった。熊谷さんと白崎さん、それに坂上の3人である。今回は庁舎からやや遠い、練馬区南部の関町での実調である。この地は道一本隔てて吉祥寺のある武蔵野市に隣…

第12話

梅雨明けはもう目前と思われたが、ここにきて雨の日が続いている。そのくせ水源地ではろくに降っていないので、今年は水不足が心配されいるようだ。新宿支署でも、節水を呼びかける水道局のポスターがちらほら貼られている。私が朝出勤し、自席の前の文書受…

第11話

熊谷さん・宮前さん・白崎さんが報告書をすっぽかし、私が報告書を作らされる事件があってから数日が経過した。中間管理職に就いてから数年、私自身報告書の作成能力には自信があったが、流石に3人分となると楽には終わらない。それでも無事に3人分の報告書…

第10話

白崎さんが熊谷さんの指導下に入って1週間ばかりが経過した。魔法の技術指導は一進一退といったところのようで、徐々に出力の安定感は増してきているが技のバリエーションはまだまだこれから、といった状況のようだ。それはともかく、師弟関係になった熊谷さ…

第9話

人事異動が一段落し、書類の提出や要員配置が完了する頃には梅雨入りからだいぶ日が経ち、もう梅雨明けは時間の問題という時期まできていた。今年は空梅雨と言っても差し支えないレベルに降雨量が少なく、梅雨なんだか真夏なんだか区別の付かない日々が続い…

第8話

週末は社会人にとって特別なものであり、我々も例外ではない。豊之内や神楽坂、秋山と高田馬場で飲んで帰宅した私は、翌日が休日ということで爆睡していた。緊急招集がかかったのは、ちょうど布団から抜け出して新聞を読みながら朝食の準備をしていた午前9時…

第7話

夏の暑さでワイシャツの下のTシャツとスラックスの下のパンツをびしょ濡れにしながらも、いつもどおり登庁した私はエレベーターの前で米長コマンダーに呼び止められた。 「あ、そうだ島やん。今日は新採候補者の面接するからな。まあ人手不足だからどうせ全…

第6話

梅雨も近づく6月頭。山も野原も青葉が繁る(都内なのでそんなに山も野原もないのだが)この季節は、諸々のヤバい奴らの活動も活発化する。一方我々はといえば、ただでさえ面倒な実調に熱中症のリスクがついて回るようになるので、この季節は出来ることならエ…

第5話

今回は私の勤務する科特庁という機関についての説明をさせてほしい。読者諸兄は人間に害をなす、様々な超常的な存在についてご存知かと思う。女性にわけの分からないものを孕ませる触手の化け物。人を取って食う妖怪や怪獣。人間の精神に深刻な被害をもたら…

第4話

夏が迫ってくる5月の上旬。我々の勤務する新宿支署でもクールビズが解禁され、私は首元で汗を大量生産するネクタイの呪縛から解き放たれていた。 「おはようございます」 熊谷さんから挨拶を受ける。彼女の透き通った声を聞くと暑さを忘れられるので夏場はと…

第3話

東京・神楽坂。新宿区内では珍しいハイソな住宅街であり、古くから栄えてきた街である。私はその神楽坂で職務上の要件を済ませ、隣接する早稲田へと歩いて戻っていた。道中あまりにも蒸し暑かったので、私はアイスクリームでも買おうかとコンビニエンススト…

第2話

「はい、じゃあ今日の朝会を始めます」 理由はよくわからないが、朝会は私が進行役を務めるのが定着してしまっている。しかし特に異を唱える人もいないので、多分今後も朝会は私が仕切るのだろう。 「今日の実調担当は坂上くんです。いいですね?酒瓶はしま…

第1話

朝礼というのは高校時代を最後にやったことのない人も多いかもしれないが、私の職場では日常的に行われていた。とはいえ、職業柄ここでの朝礼は単なる連絡の場ではないのだが。 「おはようございます。宮前さん早く職員証を通してください。坂上くん酒瓶はし…

第0話

犯罪者を捕まえるのは警察の仕事。侵略者を倒すのは軍隊の役割。じゃあ魔物や怪物と戦ってる魔法少女や退魔師の社会的身分はどうなっているのか?今回はその手の勢力が公務員としての身分を有する世界線でのおはなし。 新宿区と中野区の境目らへん、神田川の…