雑記92

最近なにかと話題に上る、高校球児の球数制限。私も野球ファンとしてツイッターで時々意見を投げているが、たまには纏めて長い主張をしようと思う。

まず大前提として、私は球数制限そのものには賛成だ。投手の肩・肘というのは消耗が激しく、当たり前の話だが球数を投げれば投げる程疲労は蓄積していく。そして才能豊かな投手ほど腕の振りは強くなるので、激しく消耗しているのではないかと思う。元プロ野球の投手の中には、現役時代の投げすぎで肘が真っ直ぐ伸ばせなくなった人や肩が水平より上に上がらなくなった人も少なくない。

一方で球数制限の導入に反対する人もいる。大きく分けて二つの主張があり、「拙速な導入には反対」という人と「導入そのものが必要ない」という人がいる。

前者の意見としては

・投手の肩肘を痛めるのは球数の多さよりも投球間隔の短さ(連投の多さ)やイニング数の問題が大きく、球数制限で解決するものではない。

・大会日程の見直しや練習での投球数の管理、練習試合の削減など抜本的な改革なくして球児の肩肘は守れない。

などがある。いずれももっともな意見だと思う。甲子園では近年になって、ようやく準決勝と決勝のあいだに休養日を設けるようになった。地方大会でもこれを導入すべきだと思うし、なんなら予選の序盤は7イニング打ち切りも検討すべきだろう。

また延長戦ではタイブレーク方式(ランナーを置いた状態からスタートする)が導入され、以前のようにズルズルダラダラと延長戦をやる試合は少なくなった。

このように、高校野球も遅ればせながら投手の投げすぎ問題に対し解決策を模索している。ただ、球数制限をこれらに加えることのメリットは大きいと思う。何故なら日頃の練習で「延長戦を想定して」ブルペンで160球、200球と投げている球児は多いのだ。試合での球数上限が決まれば、指導者もブルペンでの投げ込み数を具体的に設定できるようになる。

問題は後者の球数制限不要論者である。彼らの主張でよく見かけるのが

・そもそも全ての球児が上のレベル(プロ、大学、社会人野球)で野球を続けるわけではない→この主張は問題外。「高校で燃え尽きてもいい」と思っている球児を止めるのが大人の責任である。過去には投げすぎが元で身体障害を負った人だっている。野球を続けるか辞めるは全く関係がない。

・球数制限は投手を多く用意出来る強豪校が有利だからダメ→この主張も話にならない。強豪校が有利になることの何が問題なのか?街のパン屋がヤマザキパンに「値段を安くできる大手が有利過ぎるからパンの値段を上げてくれ」と言うようなものだ。

そもそも、強豪校だって超一流の投手を複数枚用意するのは難しい。昨年の春夏連覇を達成した大阪桐蔭のように柿木、根尾、横川と3人の一流投手を揃えられるのは極めてレアケース。しかもその大阪桐蔭でさえ大一番は柿木に試合を任せていた。

加えて過去の超高校級投手にしても、ある程度球数を投げて調子を上げてくる投手は少なくなかった。松坂もそうだったし、田中もそうだった。もし横浜高校が大一番で、球数制限で松坂を降板させていたら春夏連覇が出来たかどうか。球数制限が強豪校に有利に働くというのは、一種の先入観でしかない。

・弱小校がエースの力で強豪を倒す所が見たいから球数制限には反対→この主張は害悪でしかない。本気でこれを言っている人間は一生高校野球なんか見ないで池井戸潤原作のドラマでも観ていてほしい。こういうドラマ性の為に何人もの大投手の卵が将来を潰されたと思うと腹立たしい限りだ。

・投手複数制を義務付けたら地方の公立校は選手が足りない→一見すると尤もらしい意見なのだが、過去には佐賀北高校が投手2枚による継投戦術を駆使して甲子園を制した(しかも中村杉谷大田のいた帝京や野村小林バッテリーの広陵を抑えて)実績がある。部員が少ないならどの部員も投げられるようにピッチャーの練習をさせるべきだろう。

大体、ピッチャーよりもさらに特殊なポジションである捕手はどのチームも控えを用意しているか、緊急時には他の選手が捕手に回れるようにしている。捕手を複数用意出来て投手を複数用意出来ないということは有り得ない。

そして球数制限に関して言えば、皆マイナスの面ばかり先行して議論している。球児の肩肘を守る以外にもメリットがあることを認識しなければならない。例として

・多くの選手が投手を経験する…これによって、投手の適性がありながらエースの存在によって投手をやらせてもらえなかった選手が投手として開花するかもしれない。

・エースに責任を集中させない…過去にはチームの命運を背負わされ、マウンドを降りることが出来ずに結局故障に泣いた選手はたくさんいた。チーム内で責任を分散させれば、そうした事態を回避できるだろう。

・リリーフ投手に対する認識の変化…残念ながら、野球界では先発完投できる投手ほど評価が高くリリーフ投手は「使い捨て」「先発失格の選手のポジション」「日本人生え抜きは勿体ないので助っ人をあてがうポジション」と見なしている野球ファンも少なくない(ソフトバンクのサファテみたいに、いるだけでチームの戦術を変えられる怪物クラスは別として)。

しかし高校野球でファンを魅了するようなリリーフ投手が活躍することで、リリーフをやりたいと思う球児が出てくる可能性もある。

これは日本代表を編成する上でもメリットがある。日本代表レベルの投手となると、各球団のエースが集まるのでどうしても先発型中心になってしまう。リリーフは前述の通り消耗が激しいので、球団サイドとしては出来ればシーズン以外の余計な試合で流させたくない。結果日本代表はリリーフ不足に悩まされる。こうした状況を打破するためにも、リリーフ投手の地位の向上が欠かせない。

だいぶん乱暴なまとめ方になってしまったが、以上が私の「球数制限賛成」の根拠である。高野連で今後、建設的な議論が行われることを願っている。

おわり