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場外戦3

SSのような何か

東京・練馬にある特生自衛隊本部ビルに、緊張した声のアナウンスが鳴り響く。

「立花特将補、至急6階の第619会議室までお越しください」

1階の休憩スペースで南関東第2大隊長の権堂特佐、その部下の吉田一等特尉らと話をしていた私は、そのアナウンスを聞いて急いで会議室へ向かった。6階の619会議室へ到着すると、特生自衛隊の主要幹部である池元幕僚長と三雲特将、それに陸・海・空の各自衛隊の担当者が招集されていた。さらに背広を着た海上保安庁、科学特捜庁の職員も来ている。

「早速本題だが」

池元幕僚長が口を開く。

「今朝日本海で大型怪獣とおぼしき影が海自のレーダー網に捉えられた。最悪のケースは想定したくないが、もしかしたらゴジラBタイプかもしれん」

ゴジラというのは大型怪獣における模式種である。いくつかタイプがあり、Aタイプは善悪の別はなく、ただ上陸して通過していくだけだ。そのためこちらから攻撃しなければ害はない。Cタイプは知能が高く、明確に人間との意思疎通が可能である。そのため古くから守護神として信仰の対象となってきた。

問題はBタイプと呼ばれる個体群で、これは明確に人間、あるいは文明というものを敵視している。1954年に東京を襲った個体や、21世紀初頭に各国の原潜を襲撃していた個体がこれに該当する。また昨年東京に上陸した『怪獣G』と仮称されている怪獣も、近日中に正式にゴジラBタイプに分類されるだろう。

「怪獣の探査なら特生自衛隊の管轄になる。立花特将補、貴官は科特庁と連携して問題の怪獣の捜索に当たってくれ」

三雲特将はそう言い、私に辞令を交付した。

幕僚長らが引き上げ、619会議室は即席の作戦本部へと姿を変えた。通信機やモニターがいくつも持ち込まれ、通信系統は権堂一佐が、解析は家城一尉がそれぞれ責任者となった。家城一等特尉は練馬基地の紅一点で、過去には対ゴジラ(その時上陸したのはAタイプだった)哨戒の経験もある。

北陸沖に展開した特生自衛隊哨戒艦から、逐一海中のデータが送られてくる。哨戒艦『室見』『脊振』『呼子』『篠栗』の4隻からなる哨戒部隊が、海中をくまなく探索している。特生自衛隊は軍艦も飛行機も持っているが、これらは怪獣駆除という目的に特化しているため「戦力」に抵触しないということになっている。尤もレーダー妨害機能もなくステルス性も持たない特生自衛隊の装備は、国家間の戦争になれば役に立たないだろう。

陸地では科特庁の航空機『ジェットビートル』による探索が続いている。特生自衛隊にもヘリはあるが、地中に潜っている怪獣の探査にかけては科特庁の方が技術が進んでいるのである。

「もしゴジラBだったらまたドンパチやることになりますね」

権堂一佐は冗談めかして言ったが、実際のところ幕僚長の言う「最悪のケース」がそれである。1954年のケースや、大規模上陸こそ阻止したが昨年のケースのように市街戦になりかねない。仮にゴジラBであれば、何としても本土上陸の前に仕留めなければならない。

ゴジラに限らず、怪獣の上陸は台風や地震の比ではないほどの大惨事を招くことが多い。1990年代にアメリカに巨大な二足歩行のトカゲのような怪獣が出現したり、近年はロシア、中国、オーストラリアなど世界各国で怪獣の出現が問題になっている。ただゴジラに限ってはほぼ日本固有種と言われ、日本以外では過去にハワイと香港にそれぞれAタイプが一度ずつ出現した程度である。

怪獣問題は今や世界共通の課題となりつつある。そのため各国では通常の軍隊とは異なる、怪獣対策専門の組織を保有するようになっている。特に怪獣の多い環太平洋地域では、日本・アメリカ・ロシア・中国・オーストラリアが中心となって環太平洋怪獣対策協定(パシフィック・リム)が締結され、各国が怪獣の情報を共有している。

とはいえ、日本は怪獣天国と言われるほど世界でも突出して怪獣出現数が多い。特生自衛隊と科学特捜庁の戦力を合計すると、全世界の他の対怪獣戦力の合計に匹敵するといわれるほど我が国の対怪獣防衛は進化を続けてきた。それは必要に迫られてのことだったのである。

「立花司令官、科特庁のビートルから怪獣と思しきサーモ映像が送られてきています」

家城一尉の言葉が私を現実へ引き戻す。地中を掘り進むように移動する熱源。大きさは60メートル前後、たしかにゴジラと同程度のサイズだ。だが—

ゴジラではなさそうだな。進路上の岩石を摂食しながら掘り進んでいる。こういう行動パターンをとる怪獣はゴモラと見て間違いないだろう」

ゴモラゴジラとは一文字違いだが、大和怪獣と呼ばれる日本に昔からいる在来怪獣の一種である。性質は温厚で人に積極的に危害を加えることはなく、ゴモラが作った地下の空白は溶岩の流路となり、大規模な噴火を未然に防ぐことから有益な怪獣と見做されており、海の守り神として崇拝されるゴジラCタイプに対しゴモラは山の守り神とされている。

なお両者の呼び名の由来には諸説あり、一説には海中の現世と異世界を隔てる門を守護し、不浄の者の侵入を防ぐ『護門羅』と大地を守る『護地羅』が語源であり、両者の名称が逆に伝わっているとする説もある。一方でゴジラは南伊豆地方の大戸島の伝承にある海神『呉爾羅』が由来であり、ゴモラは『籠る者』が由来であるため名称の逆転は無い、とする説もある。

ひとまず、ゴジラBタイプが既に上陸済みという最悪の事態は避けられた。

「陸の方は空振りか…まあいい、海上探査に専念してくれ」

報告を受けた池元幕僚長の指示を待つまでもなく、既に哨戒艦は4隻体制から『綾部』『餘部』を加えた6隻体制へ移行している。水上艦からのソナー索敵だけでなく、小型潜水艇を投入しての目視探索も行われている。しかしこれまでに見つかったのは、残念ながら15メートル弱のクジラ数匹を10メートル弱のダイオウイカだけであった。

深夜になり日付も変わった頃。夜食の出前を食べ終え、再び作戦本部に戻る。それから10分と経たない内に哨戒艦『脊振』から入電がきた。

富山県沖30キロの地点に大型の怪獣と思われる影を探知。該当する怪獣の型は現段階では不明。科特庁によると動作の傾向から外棲怪獣の可能性は低いとのこと」

怪獣には大まかな分類がある。一つは宇宙怪獣。その名の通り宇宙から飛来する怪獣である。甚大な被害を伴うため、早期発見が肝心だ。それから外棲怪獣だが、これは地球内部から出現する怪獣のうち、地球外生物の遺伝子構成を持つ怪獣の総称である。数年前に米国にあらわれた『ムートゥー』が有名だが、何故か日本ではほとんど確認されていない。これらは外宇宙から地球侵略のために送り込まれているという説もあるが、現状ではオカルト話の域を出ない。

それから地球在来の怪獣である。地球在来種は本来、温厚な性格のものが多く危険度は宇宙系の怪獣よりも低い。例外は人類の怨嗟・未練など負の感情を取り込んだと言われているゴジラBタイプと(ゴジラBタイプも人類出現以前はAタイプ同様の自然現象のようなものだったのではないかとされている)、そもそも人類を捕食するギャオスくらいだろう。なおギャオスは90年代の大量発生を最後に姿を確認されておらず、絶滅したのではないかとの指摘もある。

「立花司令官。潜水艇から送られた映像の動作解析が完了しました。どうやら水棲怪獣マンダであると思われます」

解析官から報告が上がった。マンダは水中に棲む巨大な怪獣で、東洋の龍に酷似した姿をしている。性質は温厚であり、古来から海神の一種として崇拝されてきた他、滅亡したムー大陸の守護神だったとも言われている。水棲の怪獣であり上陸してくる恐れはなく、また付近を通る船舶を襲った例もないので、放置しておいて構わないだろう。

「ただいまを以て全員の今回の任を解く。お疲れ様」

もう深夜の1時を回っていたので、私はさっさと本部を解散させて官舎に戻って寝ることにした。車を出そうと玄関へ出る途中で池元幕僚長に呼び止められた。

「先日の怪獣Gなんだけどな、科特庁の研究結果によるとどうもゴジラBとは違う種族だったらしい。ABCの各タイプに分化する前の状態のゴジラゴジラの真祖だっていうんで『シン・ゴジラ』などという大層な名が付与されるそうだ」

「シンだろうがキラだろうが人に害なすなら我々は倒すまでです」

私はそう言い、玄関に横付けされた車に乗り込んだ。池元幕僚長も軽く頷き、やはり玄関に横付けされた車に乗り込んでいった。時計を見ると午前2時になっていた。

つづく?