ホモはうそつき

本庄虫、というものをご存知だろうか。W大学は各地に系列校を持っているのだが、その中の一つが埼玉県の本庄地方に存在しているのである。私の在籍していたアニメーション同好会にもここの出身者がいた。熊谷先輩と島村である。どちらもサークル内では人気者であった。

話を本庄虫に戻そう。周囲を田園に囲まれたW大学付属本庄では、季節によって大規模にユスリカが発生する。ユスリカ自体は日本全国どこにでも湧くのでさほど珍しいものでもないのだが、本庄虫は授業中の教室や昼休みの食堂、放課後の体育倉庫、トイレなど所構わず出現しては若者達を恐怖のドン底に突き落とすことで有名であった。特に悪さをするわけではないが、とにかく数が多く視界を遮るのである。

「本庄虫は人間を性転換させる能力を持っているのでわ~?」などと言い出したのは私の後輩、坂上逆子であった。金玉をちょっと考えられない速度で回転させながらドローンのように空中にホバリングしながらサラッととんでもないことを言う男である。哲学を究めると人間こうなってしまうのだろうか。「イヤまさかそんなことは…」否定しかけた私は、以前米長先輩から聞いた話を思い出した。

米長先輩の研究室時代の同期に、性転換をした人がいたというのである。現在その人は歌舞伎町で嬢王として活躍しているという話を、私は過去に米長先輩から聞いていたのである。何の因果か、その人こそW大学付属本庄の出身者、というか熊谷先輩の知人だったというのだ。この話を初めて聞いた時、私は「世間って狭くてこわいなア」くらいにしか思わなかった。だがもしその人の性転換の原因が本庄虫だとしたら…?

そういえば熊谷先輩はやけに男にモテる。豊之内に何度もイカされそうになったとか、『熊谷先輩をイカせ隊』なるおぞましい組織が存在するとか、Mは熊谷先輩にフラれたショックでノンケになって女性と付き合い始めたとか、そのモテモテエピソードは枚挙に暇がないほどだった。

一方の島村も島村で女装が得意であった。熱血!犬面人への変身能力にはまだまだ課題の多かった新人の頃から、彼の女装は素人目には見破られないほどのものであったのだ。私も彼の女装能力を買って新歓期の新入生獲得に協力するよう依頼したことがあった。断られてしまったが。

「これ関係ないわけないよねえ?」横で話を聞いていた秋山が合いの手を入れた。私もそう言われるとそういう気がしてきた。やはり本庄虫には人間を性転換させる能力があるのか?米長先輩の同期の方、熊谷先輩、そして島村。単なる偶然で片付けてしまうには、あまりにも話が出来すぎているではないか。(一度実地調査に行ってみるべきだろうか…?)私は考え込んでいたが、隣に座っていた逆子がちんぽからビールを撒き散らしながら離陸し天井に衝突してスプリンクラーを破壊し、飲み屋が水浸しになってしまったので私は考えるのをやめた。

果たして本庄虫の伝説は本当なのか?熊谷先輩は貞操を守り通せるのか?そしてこの話に続きはあるのか?多分続かないだろうなア。