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第14話

統括係長という職層は中々に厄介である。私の場合、肩書は『署長補佐』となっており、科特庁の各支署には副署長が存在しないため実質的に署長に次ぐ、新宿支署職員の中の2番手という位置づけである。科特庁も官庁であるため、職層毎に給料と役職が割り振られている。1級(主事)2級(主査)3級(主任)4級(係長補)までがいわゆる一般職員。5級(係長)6級(統括係長)7級(課長)が中間管理職。8級(特務課長)以上が幹部職員と呼ばれている。新宿支署は特定支署と呼ばれる部署なので、米長コマンダーは8級職である。私が6級、豊之内・秋山ら係長が5級、洲本さんは本来3級だが特例で4級扱いとなっている。あとの署員は軒並み若いので1級か2級職である。

では中間管理職員である私の仕事は何か。普段の業務で多いのは本庁からの依頼の取次である。本庁からの依頼に基づき実調計画を立て、職員を派遣する。そして実調に行った職員から報告書を受け取り、本庁に送る…のだが新宿支署は報告書を出したがらない職員が多いので私が代筆することも少なくない。

そして職員との面談も大切な仕事である。常に署員のコンディションを把握しておかなければならないので、定期的に職員との面談を行うのである。坂上のように面談のはずが飲み会になっていたりすることもあるが…。今日はちょうど宮前さんとホリ隊員の面談の実施日であった。

庁舎の中庭に面した休憩室。今日は会議室ではなくこちらで面談を行うことにしていた。会議室だとどうしても緊張してしまう職員が多く、私自身も会議室=居眠りをする部屋という記憶が若い頃に刷り込まれてしまっておりどうも会議室は苦手である。テーブルにコーヒーをセットしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「入って、どうぞ」

私にもいつの間にか米長コマンダーの口癖が移ってしまっている。

「失礼します」

礼儀正しく挨拶をして、ホリ・ダイゴ隊員が入室してきた。

「どうですかホリ君。こっちの世界にもぼちぼち慣れましたかね?」

「ええ、おかげさまで大分慣れてきました。向こうの世界にはなかった油そばって料理が物凄く美味しいですね。最近は週8で食べてます。向こうにも汁なし担々麺はあったんですけどね」

いや週8油そばは食い過ぎだろ、と私は心の中でツッコミを入れていた。まあでも平行世界を跨いできた人の大多数は食べ物が口に合わず体調を崩すので、その心配がなさそうなのはとてもありがたい。

「それはそうと、僕は実調で車の運転くらいしかさせてもらってないんですけど、いい加減実戦の場に出させて貰えませんか?」

やや不満そうなホリ。

「まあ超能力者といえども生身で実調に出すのは些かリスクが高いのでね。実は先程ホリ君の分のパワードスーツが届いているので、この場で試着してもらいます」

私はそういうと銀色のアタッシュケースをホリに手渡す。ホリがケースを開けると、中には金属製とも樹脂製ともつかない不思議なベルトが入っていた。

「それを腰に装着してください。装着したらホリ君の職員番号を入力してバックルの部分を掴んでください。指紋と掌紋を照合しますので」

私に促されるままにホリがベルトを起動すると、たちまち彼の周りに光の粒子が展開する。それが落ち着くと、ホリの全身をガンメタリック色と黒色からなるパワードスーツが覆っていた。警察の最新鋭機G5X3の科特庁サイキッカー仕様機材、G5X3Nタイプだ。通常のG5X3と基本設計は共通だが、超能力者の脳波に反応してより鋭敏な機動が可能になっている高性能スーツである。なお余談だが元々G5X系列は警察と科特庁の共同開発機材であり、警察では脳波反応システムは安定性を重視して採用していない。

「へえ~これ僕がこっち来た時現場にいたヤツでしょ?凄いっすね、もっと大がかりな装備でトラック1台分くらい必要だと思ってました」

若干テンションの上がっているホリ。確かにG5X系列の最初期、G5X1までは専用トラックで現場に移動してから装着していたのだが、開発チームに科特庁が参加してから装備を粒子化して蒸着変身させる技術がもたらされ、G5X2の後期生産型から実用化されたのである。なおコストと量産性を重視するG5Mシリーズでは、この機能は当然採用されていない。

「パワードスーツの性能を十全に発揮すれば一線級の戦鬼に匹敵する戦闘能力になるはずです。来週からの実調でどんどん試してください」

テンションの上がったホリは私の言葉を聞いていたかどうかは定かではないが、ともかくこれで戦力が増強されたのは事実である。

1時間後。今度は宮前さんの面談が始まった。

「なるほど、変身魔法がどうしても使えるようにならなくて焦っているというわけですか。確かに相方の熊谷さんはもう使いこなしてますからねえ」

宮前さんの悩みは予想通り変身魔法に関することであった。

「このままじゃ私には熊谷さんの相棒の座は務まらないし、相棒の座を美咲ちゃんに取られちゃいそうな気がするんです。美咲ちゃんはいい子だし私も彼女のことは好きだけど、もし私がこのまま変身魔法を使えなくて熊谷さんに愛想尽かされたら私は自分を許せないし美咲ちゃんのことも許せないと思うんです」

どうやら私が想定していた以上に、宮前さんの悩みは深刻らしかった。

「ええと、別に熊谷さんと宮前さんのコンビに白崎さんが加わる分には問題ないわけですね?」

「もちろんです。2人より3人の方が楽しいですし、美咲ちゃんのことは大好きですから。今も寝ている美咲ちゃんのお尻にガムをくっ付けたくなるくらいにあの子のことは好きです」

熱弁する宮前さん。いや最後のはまずいんじゃねえの?と指摘する者は生憎この場にはいなかった。

「実はそんなこともあろうかと、あるものを作っておいたんですよ」

私の言葉を聞いてちょっと宮前さんの表情が明るくなった気がする。私は彼女に、赤いアンダーリムの眼鏡を手渡し、眼鏡をかけ替えるように言った。そして彼女が赤縁の眼鏡をかけた途端、光が方々に飛び散り、宮前さんの身体を黄色と白の変身コスチュームが包み込んだ。

「昔テレビで見た変身アイテムを思い出しましてね、眼鏡に変身魔法の起動コードを入れてみたんですよ。宮前さんの固有コードに合わせて開発したので、他の人で同じように上手くいくかはわかりませんけどね」

この時の私、もしかしたらかなりのドヤ顔になっていたかもしれない。だとしたら恥ずかしい限りである。これで宮前さんが苦手にしている変身魔法の起動に関してはクリアできた。この姿でどれだけ魔法を操れるかは彼女の努力次第である。まあ宮前さんは真面目な性格であり、熊谷さん白崎さんへの愛情もあるのでそこは大丈夫だろう。

こうして私は2件の面談を無事に終えることができた。明日からはホリ隊員を実調に動員できるし、宮前さんも今まで以上に熊谷さんや白崎さんとの仲は深まり、実調に真剣に取り組んでくれるだろう。もっとも私としては報告書さえきちんと出してくれれば何でも良いのだが。

(つづく)