レモンー悪貨は良貨を駆逐する

経済学でよく扱われるテーマの中に「情報の非対称性」というものがあります。普通の市場において、生産者と消費者が持っている財の情報は対称ということになっています。コーラを例に考えて貰えば分かりやすいでしょう。どんな味の飲み物でどのような材料が使われているか、品質管理はどの程度きちんとしているか、消費者にも大体想像がつきますよね?そして缶一本あたりの相場がいくらか、いくらなら高くていくらなら安いかも知っています。これが正常な市場ということです。
そうでない市場もあります。例えばディーラーを介さずに中古車を取引する場合を考えてみましょう。中古車を売る側は、自分の車の状態が分かっています。これに対して買い手は外見でしか車の状態が判断出来ないわけです。つまり売り手が持っている情報を買い手が持っていない状況になります。これが情報の非対称性です。ここで売り手側はどのような行動に出るでしょう?同じ値段で売れるなら、出来るだけ状態の悪い車を売って良い車を手元に残そうとしますね。こうして良い財は市場に出なくなり、悪い財だけが市場に流れることになるわけです。ちなみにこのケースの粗悪な中古車を経済学では「レモン」と呼びます。レモンは見た目はオレンジと大して変わらないが非常に酸っぱくて食べられないことから、見た目は普通でも中身がボロボロの中古車をこう呼ぶわけです。まさに「悪貨が良貨を駆逐した」状況になってしまいますね。
では、この事態を防ぐにはどうすれば良いか?売り手と買い手の間にディーラーが入れば良いのです。ディーラーは個人の売り手と違い、継続的に中古車を売らなければなりません。そうすると、粗悪な中古車を高く売るディーラーは淘汰され、信用されるディーラーが生き残っていくことになりますね。つまり中古車市場に競争原理が働き、売り手と買い手が対称になるのです。車に関する情報ではなく、ディーラーに関する情報が市場を均衡させるわけです 。
今のライトノベル市場はどうでしょう?本来ならばディーラーの役割を果たすのは出版社のはずです。出版社が質の良くない売り手(作者)から売り出された粗悪な作品を弾き、消費者は良い作品を供給するレーベルを選択して市場の競争原理が作用するのが、ライトノベル市場の正常な状態だと思います。
しかし現在では、出版社自身が売り手になってしまっています。つまり質に関係なく、とにかく新作を出せば今の読者には良し悪しなんか分からないだろう、という発想ですね。私はコレは非常に危険な状況だと思います。売れればいい、儲かればいいとレモンばかり発売される現状を改善しなければ、読者に本当に必要なオレンジに相当するラノベは枯渇してしまいます。出版社は出す作品を良く吟味して頂きたいものです。