プロ野球

ホークスは今日もファイターズに0-12と惨敗した。首位ライオンズとのゲーム差は最早絶望的、2位のファイターズにはそもそも直接対決4勝9敗なので控え目に言って「話にならない」という状況だ。3位争いをしているマリーンズ、バファローズとの直接対決も取りこぼしが多く、優勝争いどころかAクラス圏内ぎりぎりの3位すら雲行きが怪しいというのが現実だ。

それにしても、昨年の日本一チームが何故ここまで急激に落ちぶれたのか?その原因は色々あるが、大きく分けて3つある。

まず第一に、完成してしまったチームを維持することの難しさ。昨年のホークスは、間違いなく近年のプロ野球において最も完成されたチームだった。

今宮、本多(あるいは明石)、松田を中心に守りをガッチリ固め、千賀、東浜、武田といった先発投手が序盤から全力で投げる。柳田、デスパイネ、松田、上林らの飛び道具で小刻みに得点を重ねる。岩崎、モイネロ、森が相手の反撃の気運を減退させ、最後はサファテが蓋をする。勝つためのゲームメイクが完全に確立していたのだ。

よく「ホークスは誰が監督をやっても勝てる」と揶揄されるが実はそれは工藤監督にとって最高の褒め言葉である。監督の采配の妙に頼らず、システマチックに勝ちを手繰り寄せる。これはプロスポーツにおける理想的なチームの姿の一つといえ、逆に言えばそういうチームを作っている時点で工藤監督の仕事はほぼ完遂されていたのである。

野球でいえば2012~14の3連覇した頃の巨人や、最近の広島もこれに近い。他のスポーツでいえば10年くらい前のバルセロナもそうだ。だが完成されたチームは長続きしない。システムの完成度が高いほど、そのシステムの心臓部となる選手は替えが利かないのだ。阿部慎之助の故障を起点に山口・杉内・内海といった投手陣が一気に崩れた巨人などはまさにその典型である。

ホークスでは、システムの要石といえるサファテが離脱した。その代役に耐えうる存在だった岩崎も同時に離脱。森・モイネロ・嘉弥真・二保・加治屋といったリリーフ陣は、一気に2段階責任が重くなってしまった。必然プレッシャーは重くのしかかり、登板機会が増えて疲労も蓄積していく。さらに、ベンチから固い守りを指揮していた鳥越コーチの退団も無視できない。今年のホークスがエラーだけでなくポジショニングの悪さ、判断ミスでズルズル失点する場面が目立つのは、間違いなく鳥越退団の影響である。

第二にスカウト・編成部の怠慢。ここ数年「育成のホークス」などと持て囃されて箍が緩んだのか、ホークスはドラフトにおいてチームの穴を埋め合わせる即戦力を指名してこなかった。もちろん、チームの将来を託すに足る高校生の逸材を集めるのは悪いことではない。現に今宮、甲斐、上林が主力に定着し、牧原や真砂、曽根、投手では笠谷や松本なども一軍の椅子を伺う所にいる。ファームでは川瀬、茶谷、三森、投手では高橋純平や小沢、野澤などが着々と腕を磨いている。

では彼らが今、苦境にあるホークスを救えるか?答えはノーだ。彼らが一軍レベルで使える選手になるには、あと数年はかかるだろう。直近のドラフトで、ホークスが指名した「即戦力」はほぼゼロだった。田中正義、高橋礼、椎野新と大学生投手を指名してきたが、いずれも評価は「素材型」「回復待ち」であり、すぐに使える状態ではなかったのである。

そもそもホークスこそ即戦力級の選手の目利きで強くなってきた球団である。三塁手として5度の優勝と4度の日本一に貢献した松田、首位打者に輝いた長谷川、今やチームの看板である柳田、昨年のチームの勝ち頭だった東浜など、入団直後は活躍しなくても3年目くらいから徐々に台頭しチームの中心にいる。入団から一貫して中継ぎの柱となっている森など、まさにスカウトの目利きの象徴のような選手だ。ここ数年はそういった選手を獲得できていない。

ホークスが素材集めで遊んでいる間に、他球団は目覚ましく進化した。守備の崩壊に泣かされてきた西武は源田を獲得し、浅村との二遊間はもはや泣き所ではなくなった。ロッテは鳥越コーチの指揮の下、藤岡や中村といった若い内野手が花開きつつある。投手陣の相次ぐ移籍に悩まされた日本ハムは加藤や有原、玉井や井口などノンプロの実力派投手を次々に獲得し、戦力化している。要するにホークスの「豊富な戦力」は、既にパリーグにおいてはアドバンテージをもたらしていないのだ。

そして第三に、首脳陣の選手起用の硬直化。これは安定して強いチーム作りとトレードオフの関係にあり、一概に悪いとは言い難いが、誰の目にも明らかにパフォーマンスの劣化した内川、松田、デスパイネを頑迷に中軸に固定したことがシーズン序盤の低迷につながった。さらに今宮や高谷など、怪我が完治していない選手の投入を焦ったことも却ってチームの傷口を広げた。

元々工藤監督は「実力が同じなら実績のある選手を使う」と公言していたが、果たして実力は同じだったのだろうか?肘の怪我を庇いながら出続けて守備も劣化した今宮と二軍で急激に数字を上げた川瀬が?36歳になって2割前半をうろついている内川と1軍昇格即代打ホームランの塚田が?打撃ボロボロ守備ポロポロの松田と再昇格して3試合連発の西田が?

結局のところ、首脳陣には勇気がなかった。目先の数試合を落としても新しい戦術システムの核になりうる選手を抜擢し、我慢して使い続ける勇気が。似たようなケースでは巨人も中々阿部・村田・長野という大功労者を切れずに苦戦していた。今年村田に代えて抜擢された岡本は、打てない時期も使われ続け、ついに殻を破りつつある。チームの核となる選手は、首脳陣の忍耐なしには現れないのである。そもそも柳田や今宮、松田にしても先代・秋山監督が辛抱強く育てたからこそチームの顔なのである。

1ホークスファンとしては、もう今シーズンの優勝は望まない。そのかわり、来シーズン以降のホークスが勝つための「システム」を構築してほしい。3位を確保するために貴重なリリーフ要員を使いつぶした挙句の果てに5位、などという最悪の結末を招かないためにも、今こそ工藤監督には我慢を求めたい。

おわり