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第44話

新年度は最初からバタバタとしている。ケツホモシンパの残党に不穏な動きがあると通告してきたのは警察のいわゆる公安のような機関であった。

「不穏な動きって言われてもなあ…こっちから探してどうにか出来るもんでもないしなぁ。島やんどうする?」

と米長コマンダー

「一応、探知魔法で管内に入ってくれば捕捉は出来ると思いますがね。よその管区にいるのを勝手に探すのもよろしくないかと思いますね」

新設された副署長席に腰かけたまま私は返答した。庁内の回覧を見ると、今日は警察と科特庁のG5部隊の共同訓練が行われている。ここから異動したホリ隊員も上手くやれているだろうか。本庁の近くには油そばを出す店が少ないことだけは心配ではある。

4月は引っ越しシーズンである。魔法使いの資格証明カードには住所が記載されているので、その記載変更の客で窓口はごった返している。記載変更に使うプリンターはしばしばインク詰まりを起こす厄介者であったが、この日は順調に稼働していた。

夕方近くなって、決裁の書類を眺めていると神楽坂副署長がすっ飛んで来た。

「おい島やん大変だぞ。警察のG5司令部がテロリストに襲撃されたそうだ」

よりにもよってそんな所を襲撃するなんて間抜けなテロリストだな、と思ったが今日は訓練でG5の大部分は出動している。意外とマズイことになっているのかもしれない。警察庁は新宿支署の管区外にあるが仕方ない。私はテロリストの正体が見たかったので探知魔法を起動した。

「あ、ヒットしました。森亜禎一(もりあ ていいち)、ケツホモシンパの魔法師の生き残りのようですねえ…」

この男、本名は全く違うのだが探偵小説最強の敵役、モリアーティ教授に憧れてこんな変な名前を名乗っているらしい。

「ケツホモ派の連中、まだいたのか。もはや趨勢は決した、今更テロなんかやっても民衆の支持も他勢力の支援も受けられんだろうに」

神楽坂が呆れたように首を振る。

「連中には連中の滅びの美学みたいなものがあるんでしょう。実にくだらない」

私も彼らの思考は読めるが、およそ同調に値する要素は存在しなかった。

「あ~そいつのこと、詩々美ちゃんには黙っておいた方がいいと思いますよ」

唐突にスギウラさんが会話に割り込んできた。彼女の言いたいことはわかる。この森亜こそ神木田さんの友人を唆して事件に巻き込み、死に追いやった張本人なのだ。このことを知ったら一人で警察庁に向かいかねない。

そのころ、警察庁G5指令室では二人の男が顔を見合わせていた。

「やれやれ、こういう展開は想定外だったな…」

苦笑を浮かべる爽やかな二枚目の男性は神戸監理官。G5部隊の事実上の責任者だ。

「科特庁と特生自衛隊に応援を要請した。千代田支署と新宿支署から戦鬼が向かっている。それからG5部隊も訓練を切り上げてこちらに向かっている」

顔色一つ変えず告げる、髪をオールバックにまとめ眼鏡をかけた長身の男。G5部隊の監察を担当している大河内警視だ。神戸警視とは同期入庁の間柄である。

と、そこへテロリストの一団がなだれ込んで来た。先陣をきって現れた森亜が勝ち誇ったように叫ぶ。

「貴様らに個人的な恨みは毛頭ない。だが米長や高井戸ら裏切り者に与して誇り高き魔法師の同胞を多数破滅に追いやった罪は消えない。組織の長らしく潔く首を差し出せ」

「やれやれ…潔くと来たよ。あいにく僕はそういう性分じゃないんだよね」

営業成績抜群の敏腕ビジネスマンのような笑みを浮かべる神戸警視。

「同感です。そうやって自分視点でしか物を言えないから科特庁に敗れるんですよ」

眉一つ動かさない大河内警視。二人の腰には、いつの間に取り出したのかベルトが装着されている。

「「変身」」

両者の声が重なった。 姿を現したのは2機のG5Xユニット―複眼まで黒一色の大河内専用機と、青とも緑ともつかない色のボディに黄色い複眼の神戸専用機である。G5ユニットが一機も残っていないと思って突入したテロリストたちは、露骨に狼狽の表情を浮かべている。

同じ頃、東京と神奈川を隔てる河川敷では、警察庁へ戻ろうとするG5部隊とテロリストの別動隊が激しくやりあっていた。科特庁のホリ隊員は、新たにコンビを組む山浦隊員と共に電動ダガーによる近接戦闘を行っていた。河川敷にはホームレスが住み着いており、巻き込む危険性を考慮して銃火器の使用は控えられていたのである。

戦力的には勝敗は火を見るよりも明らかだったが、テロリスト達の士気は予想外に高くなかなか突破出来ずにいる。同じG5Xでも、小型怪獣との戦闘を主要任務とする特生自衛隊のユニットは攻撃装備が豊富なのだが、警察も科特庁も生身の人間を攻撃する装備には乏しい。

「お ま た せ」

そう言うが早いか乱入してくる白い影。ホリ隊員は見るまでもなく正体がわかった。門原さんのG5X2エターナルユニットである。門原さんのエターナルユニットが魔力を散逸させる力場を生じるメモリを起動させると、テロリスト達の攻撃魔法は次々と虚空に吸い込まれて消えて行く。

門原さんの参戦からわずか数分で勝負が決した。投降した所で破防法による厳罰は逃れられないと自決した者もいたが、生き残っていたテロリストの多数は戦意を喪って投降した。

30分後、ようやく警察庁のG5指令室にたどりついたG5部隊が見たもの。それは首謀者である森亜の亡骸と、呆然と立ち尽くすテロリスト達、そして見覚えのない2機のG5X3ユニットであった。この事件の顛末を私が知ったのは翌日、ホリ隊員からのメールと救援に向かった坂上・藤岡両隊員の報告によってであった。

結局、森亜らが与えた実損害は警察庁G5部隊の指令室の施設を破損させたのみであった、生き残ったテロ参加者達は魔法使いとしての資格を剥奪され、特殊刑務所に収監された。門原さんは河川敷での戦闘を終えると、またどこかへ行ってしまった。かくして新年度早々に発生した事件は、あっけなく終息を迎えたのであった。

つづく