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第32話

私が出張で横浜へ出向いていた所に電話が入ったのは、ちょうど用件を済ませて帰ろうとしている時であった。電話の主は一之江さんであった。番号教えたことあったかな?と思ったが、マメな性格の神木田さんがデスクに電話番号のメモを貼っていたことを思い出した。恐らくアレを見たのだろう。

「どうか、しましたか?」

トイレのパイプでも詰まったかな?と軽い気持ちで電話に出る私。

「庁舎の周りが詰云だらけなんです~。早く戻ってきてください…」

電話機ごしでも一之江さんの声が震えているのがハッキリわかった。今日は私と秋山・豊之内の両係長は横浜へ出張。新城係長は有給休暇で不在、矢吹係長は熊谷さん・宮前姉と実調、スギウラさんは神木田さんとホリ隊員を連れて実調、白崎さんと島村さんは洲本さんと実調に、坂上と宮前妹は研修で本庁に出払っており、庁舎には鹿島さんと一之江さんしか戦力になる者はいなかった。

狐娘の姉妹茜ちゃんと葵ちゃん、それに犬娘の陽ちゃんはいるが、そもそもこの娘達は戦力にならない。

「詰云は何匹くらいいますか?コマンダーには連絡しましたね?」

私は彼女を落ち着かせようと、つとめて冷静に聞こえるように質問をゆっくりと投げかける。

「多分20匹くらいです。先日宮前先輩が見た、燃える詰云もいます。米長課長は今高田馬場駅なのでもうすぐ来られると思います」

泣き出しそうな声で答える一之江さん。

「あ、じゃあ大丈夫です。戸締りをきちんとして、鹿島さんと離れないようにデスクの周りで待機してください。葵ちゃん達には自室から出ないように言ってください」

米長コマンダーが来れば全く問題はない。とりあえず最低限の自衛だけをするよう指示を出し、私と豊之内は秋山係長の車に乗り込んだ。戻ったら支署がウンコまみれになっていなければ良いが…

「うおっ!なんじゃこりゃ!?」

米長コマンダーも、予想だにしない詰云の多さに驚いている。詰云インフェルノが煙と悪臭をまき散らしながら向かって来るのを見て、米長コマンダーは十手を構える。

十手と言っても、米長さんのそれは時代劇に出てくるものとはだいぶ異なっている。全長は80センチ以上あり、純銀と隕鉄を軸とした特殊な合金でできている。核にはウルトラの星と同じく特殊な宇宙鉱石『獅子の瞳』が使われている。しなりを活かして打撃武器としても、相手に突き刺す武器としても使用可能である。

「終わりっ!閉廷!君もう帰っていいよ」

米長さんは叫びながら光線を放ち、詰云インフェルノをバラバラにした。焼いてダメなら砕けばいいのである。とはいえ今回は数が多い。砕けた詰云インフェルノの後ろから別の個体がワラワラと迫ってくる。

「チッきりがねえな…」

米長さんは懐からカードのようなものを取り出す。それにはG5Xを意匠化したようなイラストが描かれていた。それを米長さんが十手の先に突き刺すと。十手を持つ右腕がG5Xのアーマーに、十手が自動小銃に変化した。そしていつもの轟音が鳴り響き、複数体の詰云がまとめて消滅した。

トレース魔法。米長さんの固有魔法である。彼がカードに描いた物を再現し、自分の力として利用できる魔法。一見きわめて強力だが絵の再現度が高くなければ全く役に立たないこともあり、かつて漫画家を志していた米長さんでなければ一線級の能力として使いこなすことは不可能だっただろう。

詰云の群れを倒した米長さんが振り返ると、別の詰云がまさに新宿支署のガラス戸を破ろうとしている所であった。自動小銃で撃てば内部にまで被害を及ぼしかねない。

クロックアップの時間だオラア!」

米長さんのトレースは、素材が実在していなければならないわけではない。次に彼が取り出したカードは2枚。片方には人気漫画に登場する幽波紋のイラストが、もう片方には宮前さん(姉)のイラストが描かれていた。そのカードを2枚同時に十手に突き刺す米長さん。

次の瞬間、米長さんの周囲の物すべてが静止した。その中を十手に高圧の電気を帯電させながら、悠然と歩む米長さん。ガラス戸を破らんとしていた詰云の前まで行き、帯電した十手で軽く小突く。静止が解け、全てが動き出すと、詰云は一瞬で黒焦げになり吹き飛ばされた。

私達が新宿支署に着いた時には問題は一切解決していた。結局実調組や研修組が戻ってくるのを待つことなく、大量の詰云軍団は米長コマンダーによって一掃されてしまっていたのだ。建物内で震えながら様子を見ていた一之江さんと鹿島さんも呆気に取られている。

コマンダー、お疲れ様でした。また派手にやりましたね」

私は出張土産の焼売を渡しながら周囲を見渡す。実調から戻ってきた白崎さんが詰云の残骸からどんどん草を生やして痕跡を消しているが、まだまだ周囲には詰云の残骸が転がっている。島村さんは鹿島さんに効率の良い散水魔法の使い方を教えている。

「まあ手加減ってのは逆に高度な技術が要るからなあ。もうちょっと余裕がある時ならもっときれいに戦えたんだが…」

と米長コマンダー。実戦は恐らく3年ぶりくらいである。

「それより久々に全力で行ったから腹減っちまったよ。焼売食おうぜ」

と米長コマンダーから提案を受け、後片付けに奔走していた面々もぞろぞろと庁舎内に戻っていった。私がお土産にチョイスしたジェット焼売は、匂いがすさまじくフロア内は2日間くらい焼売くさくなってしまった。

つづく