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第25話

SSのような何か

予言者の類は、狂人か本物かを判別するのが極めて難しい。鬼の真贋は素人でもわかるだろう。立派な角の有無で一目瞭然だ。狐娘にしたって、本物は耳が二つである。

翻って予言者は、傍から見れば人間である。そして予言者を自称する単なる狂人と外見上の相違点はない。厄介なのは、前者も後者も「自分は予言者だ」と言って科特庁の支署に乗り込んでくることがある、ということだ。

秋の長雨の真っただ中のある日、我らが新宿支署にもとうとう予言者を自称する男がやってきた。痩せこけた老人で、仙人にでもなるつもりなのか途轍もない量の髭を蓄えている。すっかり涼しくなっているにもかかわらず短パンにアロハシャツという出で立ちの老人、見ようによっては本物っぽくもあり、単なるキ○ガイっぽくもある。

「あんなんどう見たってただのキチ○イでしょ、殴って追い出しましょ」

そう言いながら退魔棒(と称する金属バットのような何か)を振り回す秋山係長。

「いや、あの出で立ちは東北地方の隠れキリシタン集落の伝説に描写されている予言者に酷似している。もしかすると本物かもしれない」

と豊之内係長。このまま話していても議論は平行線をたどるのは目に見えているので、私は米長コマンダーから許可をもらって老人の思考を解析することにした。

「島畑さんの魔法って超能力とどう違うんですか?」

熊谷さんにヒソヒソと話しかける葵ちゃん。

超能力者が他者の思考を見るのは、単純に視覚による情報閲覧の延長である。即ち超能力者は思考・記憶の情報を一つの塊としてしか閲覧できず、また見ている本人のフィルターを通してしかアウトプット出来ない。それに対し私の魔法は思考・記憶を日本語のテキストファイルのような形で抜き取るので、それをありのまま他者に開示できる。勿論それぞれに一長一短があり、超能力者の方が得てしてエネルギー消費は少なく身体への負荷も小さい。と葵ちゃんに説明したが、分かったかどうかは微妙なところだろう。

老人の思考を解析しようとして私は驚いた。

「閉心魔法を使っているのか」

閉心魔法というのは思考や記憶にロックをかけて、正しいパスコードを以て干渉しない限り内容を閲覧できなくする魔法である。この老人は魔法関係者なのだろうか?しかしパスコードは1種類しか設定されておらず、私にかかれば3分もあれば解除できるものだった。

この閉心魔法の開発者は英国の魔法学校の教授だった人物だが、一説には彼の閉心魔法には1145141919パターンのパスコードが設定されていたという。私が本気で解除しようとしても4年はかかる規模だ。その教授は残念ながら過去の紛争で帰らぬ人となったが、私も一度会ってみたかった人物である。

コードを解除して老人の記憶を閲覧していくが、所々に普通の人間では有り得ない文字列が挿入されている。狂人ならば、本来あるべき場所に正しい文字列がなかったり、逆に存在してはいけない場所に存在してはならない文字列が入っているものだが、この老人の記憶にはそうした異常はない。明らかに外部から記憶を挿入されている。つまり本物の予言者ということだ。

「…これは本物みたいですね。挿入されている文字列が地球人の言語じゃない。神か、そうでなきゃ宇宙人に記憶を植え付けられてますね」

「挿入されてる部分は日本語化できないのか?」

米長コマンダーの言葉に、首を横に振る私。

「駄目みたいですね、該当する魔術コードがありません。直接この老人に話を聞きましょう」

老人の滑舌がとんでもなく悪い上に東北弁だったので、最初は何を言っているのかさっぱりわからなかった。私の思考解析と、葵ちゃん達の聞き取り(彼女たちの耳は人間のそれよりも集音性に優れている)をすり合わせた結果、空から何やら大きな球が落下してくるという予言であった。

「またかよ!?この間宇宙から怪獣落ちてきたばっかりじゃねえか」

呆れる米長コマンダー。正直、私も同意見である。

「でもまた宇宙から何か来るとしたら対策をしなくちゃいけないでしょう?」

宮前さんが真っ当すぎる意見を挟んでくる。とりあえず本庁の宇宙部に連絡を入れておくしかなさそうだ。老人はといえば、新宿支署に置いておくわけにもいかず扱いに困ったのでESP研究所に引き取ってもらうことにした。科特庁のロゴの入った黄色い救急車のような車が来て老人を引き取り、研究所のある八王子へ向かっていった。

「えっ!?また隕石が来るんですか?」

連絡を受けた宇宙観測隊の迫水隊長も呆れた様子であった。まあ当然だろう。私はとりあえず成り行きを説明し、宇宙観測隊に隕石を探してもらうことになった。問題は落下点がどこになるかである。もし日本以外に落ちるならば放っておけばよいのだが。葵ちゃんも私の膝の上に座って(安定性の問題なのかエアコンが直接当たらないからか、彼女は最近ここを気に入っているようだ)不安そうな顔をしている。

1時間後には宇宙観測隊から報告が来た。さすが迫水隊長、相変わらずの仕事の早さである。だが内容に関しては正直に言って聞きたくもないようなものであった。まず隕石については「該当する物体あり」とのことであった。そして…

「予測落下地点は新宿区三栄町近辺。つまり四ッ谷駅周辺ですね。予想される被害範囲は新宿区・千代田区・文京区・豊島区・中央区・渋谷区…」

「要するに都心部直撃ですね」

私は頭を抱えながら報告を遮った。龍ヶ守町ならともかく、東京中枢部の住民を避難させることなど不可能だ。既に科特庁の本庁内では上へ下への大騒ぎになっているらしかった。該当地区の関係者が一斉に本庁へ集められた。皆一様に表情は硬かった。会議に先立ち、既に調整課が警察と自衛隊に接触したが、やはり避難誘導は不可能という結論に達したらしかった。

「くそったれめ、何でまたこっちに来るんだ!」

そう声を荒げたのは烏丸防衛部長である。

自衛隊による破壊措置の準備は既に講じられています。しかしミサイル防衛システムが隕石に通用するかは未知数です。それに大気圏内まで目標が到達しなければ防衛システムは使えません」

調整課から報告が入る。特生自衛隊の池元幕僚長がいればいい案を持っていたかもしれないが、今回は対象が生物ではないため特生自衛隊の管轄ではない。

「何とか宇宙にある内に破壊できないのか?」

と湯河原長官。彼は元々魔法・科学統合分野の研究者であり、この手のトラブルには不慣れであった。

「スペースビートルの攻撃力では隕石の無力化は困難です」

と迫水隊長。スペースビートルは元々観測用の機材なので、攻撃力は地球圏内用のジェットビートルに劣るのだ。

お偉方のやり取りを聞きながら、私は考え事をしていた。四ッ谷付近には瀧少年の自宅があり、疎開してきた依水家がいる。依水家の神社の御神体は太古に落下した隕石だったという。もしかすると先日龍ヶ守に出現した宇宙怪獣とは別に、周期的に依水家に降りかかる隕石があるのではないか?災厄の対象は龍ヶ守の町ではなく依水家の方だったのではないか?私は記憶の解析の中で、依水家の女性には共通して予知夢の因子があることを突き止めていた。もしかするとアレはこの周期的な災厄を警告するために与えられた力なのではないか。だとすると一体何者が与えた力なのか?

「一つだけ対抗手段があります」

そういって立ち上がったのは大山装備開発課長である。

「R-2号ロケットを使いましょう」

R-2号。かつて科学特捜隊が開発した超兵器、R-1号の後継機である。R-1号は無人惑星の破壊実験に使用されたが、無人惑星のはずがその星には巨大生物が住んでおり、地球へ飛来してしまったという曰く付きの武器である。

「R-1号の悲劇を忘れたのか?あんなもの使えるわけがないだろう」

烏丸防衛部長の反応も、当然といえば至極当然である。だが大山課長も引き下がらなかった。

「いえ、人の英知が生み出した武器です。必ず人を救えるはずです」

議論は平行線をたどったが、最後は湯河原長官の「失敗したら私が辞任するから」の一言を以てゴーサインが出た。一度許可が下りてしまえば科特庁の仕事はとんでもなく早い。瞬く間に発射態勢が整い、発射ボタンは大山課長が押すことになった。

「頼んだぞR-2号。人間の英知が生み出したものだろう、人を救ってみせろよ」

そんな大山課長の気持ちを知ってか知らずか、R-2号は勢いよく空のかなたへ消えていった。

私は会議を抜け出して、初海嬢に電話をしていた。依水神社に祀られていた石について何か知らないかと問うと、石自体は200年前の震災で焼失してしまったが、口伝に聞いたところでは真っ赤に輝く、ほのかに熱を帯びた石だったという。

「やはりそうか」

私は電話口で一人呟いた。その特徴からいって、バラージの赤い石と同一の石であった可能性がきわめて高い。つまり呪われた依水の血筋を救う予知夢の力を授けたのはノアの神だったのではないか?あの老人の解析できなかった文字列も、神からのメッセージだとすれば合点がいく。

そんな私の勝手な考え事をよそに、R-2号は隕石を正確に捉えていた。スペースビートルからの監視映像を固唾を呑んで見守る科特庁幹部たち。数分後、大きな爆発が隕石とロケットを包み込んだ。

「やったか…?」

うめく湯河原長官。数分後、隕石は跡形もなく消滅していた。していたが、その後ろからもう一発の隕石が来ているのが映像に映し出された。沈黙に包まれる科特庁本部。

「あとは自衛隊に託すしかないな」

私はそう思い、会議室を出ようとした。その瞬間、スペースビートルのカメラが信じがたい光景を映したのだった。鮮烈な虹色に輝く光線が隕石を捉えたかと思うと、隕石は先ほどのR-2号以上の盛大な爆発を起こした。依水家が囚われ続けてきた死の呪いが、私の目の前で跡形もなく―今度こそ塵一つ残さずに消滅したのだった。

光線を発射した主は見るまでもなかった。あの銀色の巨人だ。

「ノアの神…やはり彼が」

「アレは神ではないよ」

そう言ったのは巨大生物対策課の村松課長だった。

「彼は決して神ではない。だが我々人間が諦めない限り、彼は必ず現れ希望の光を見せてくれる。彼の名は―」

「彼の名は?」

ウルトラの星からきた銀色の勇者。地球を愛した永遠のヒーロー。人は彼を『ウルトラマン』と呼ぶ。

(つづく)