あるサークル員の一日

その日、私は部室にいた。曜日指定のない、半永久的に保有権の担保された部室ー四半世紀を超えるサークルの長い歴史の中で、多くの先人達の苦労の果てにようやく勝ち得た六畳ばかりの部屋だがーそこでくつろいでいた。

「ういーっす」。投げやりな挨拶とともに一人の男が入室してきた。SNSと呼ばれる、私の同級生だ。幅と厚みを持った大柄な体躯。教育実習先で『ガタイMAX』と呼ばれたのも納得である。かつて未開の蝦夷地を開拓した屯田兵の末裔とも、北海道の裏社会の実力者の眷属とも噂されているが、当人は単なるガタイのいい変態である。

「おいすー」。どことなく軽薄な挨拶とともに別の男が入室してきた。Mと呼ばれる、小奇麗だがどこか異様なたたずまいの男。学年では私達より一つ上だが、サークル難民を1年経験しているためサークル内学年では私達と同期である。抜群の学歴の持ち主であるMだが、良い意味でエリート意識のない男であり、交友関係も幅広い。

「あっ、えむじゃん久しぶり」。そう声をかけるSNS。実際のところ一昨日にもMと飯を食いに行ったのだが、このように挨拶するのがこの男流の友達づきあいの方法なのかもしれない。「最近どう?」。なおも畳み掛けるSNS

「いやー最近尿酸値が高くてさー」。軽薄に返答するM。大学生の健康を蝕む三毒といえば酒・タバコ・油物だが、その三つを完全制覇している以上、Mの健康状態に難があるのは無理からぬことだろう。なお余談だが私も油物の過剰摂取で脂肪肝を起こしており、健康状態が良いとは言えない。

この後はひとしきりアニメの話をした。「アニメに登場する少女達は何故ああも性格に難があるのか、甚だ遺憾である」だの「○○はヒロインはいいけど主人公が要らない」だのと適当に放言しまくった後、SNSが徐に言い放った。「shokaさんをイカせたい…shokaさんイカせたくない?」

shokaさんとは私の一つ先輩のサークル員である。卵を逆さにしたような造形の良い輪郭の顔に涼やかな目元、端正な顔立ち…M曰く「アニメのヒロインっぽい」人物であり、SNS曰く「shokaさんに双子の妹がいたら絶対付き合いたい」人物だそうだ。ちなみに男性である。(…尤もshokaさんにもし双子の妹がいても、多分SNSにはなびかないだろうな)などと失礼なことを私は考えるのである。

「いやーわかるよSNS!俺もshokaさんイカせたいもん。俺ら以外にも絶対そういう奴いるって!ryさんとか絶対そうだよ。今度メンバー集めて会議しようぜ!」。Mの意味不明な台詞を私は半笑いで聞き流していた。この時私は、またいつものMの軽薄な冗談が始まった、くらいにしか認識していなかったのである。数日後、あのような事件が起ころうとは、私もSNSも、恐らくMでさえ予想していなかっただろう…

以上です。この後の顛末はさかこ君のブログを読んでください。