第40話

青梅市は東京都のやや端っこの方にある街だ。周囲を山に囲まれた町で、綺麗な水が得られる立地故に昔から酒造が行われている。新宿支署からは電車で一本だが、今日の大会会場は青梅駅からさらに奥に進んだところにあるため、青梅から奥多摩行きに乗り換えなければならなかった。

山の麓に作られた、科特庁の魔法師研修センター。ちなみに最寄り駅となった青梅線軍畑駅は利用者数が5~6倍に激増したという。元々1日あたりの利用者数が200人くらいだったせいだが…。山の斜面を活かした、経験の浅い魔法使いに実戦的な研修を積ませるための施設である。

受付で新宿支署チームとして出場する3人を見送り、まずは大会役員控室へ向かう。審判員や魔法科教育課長、同委員長らに挨拶を済ませて選手たちの居るメインフロアーへ降りると、各チームの選手たちが準備をしている。

「うひょひょ、この大会は良い。女の子ばっかしじゃ」

セクハラおじさんのようなことを口走る豊之内。

「あ、島畑先生~!」

そう言って走り寄って来たのは魔法師管理課の十時愛梨主事だ。彼女は管理課美城班のチームで今回の大会に出場する。私は昔彼女達に魔法関連の知識を教える講師をやっていたのだが、当時と比べると愛梨ちゃんは随分大きくなっていた…主に胸が。

「愛梨ちゃん久しぶりですね。大会に臨む自信のほどは?」

私は彼女の胸の方に目線を向けないように努力しながら質問した。

「バッチリです~。美波ちゃんも有香ちゃんも調子は良好ですし、優勝を狙いますよ」

えへん、と胸を張る愛梨ちゃん。おっぱいが勢いよく跳ねる。美波ちゃんこと新田美波主事は彼女の同期で、やはり私が講師をしていた時に教えていた子である。有香ちゃんこと中野有香主事は二人とは異なり、後天的な補強を受けていない普通の魔法師である。新宿支署に来ている一之江さん鹿島さんの同級生だ。

「島畑先生…」

小声で呼びかけられて振り返るとこれまた見慣れた顔が。魔法師管理課、高木班の鷺沢文香主事である。彼女も愛梨ちゃんや美波ちゃんと一緒で、私が受け持っていた子の一人である。彼女と同じチームの相葉夕実主事もそうだ。

「おやおや、これではどこのチームを応援してよいものか…」

私は頭をかいたが、新宿支署の職員として来ている以上熊谷さんたちを応援するべきなのだろう。皆怪我なく大会が終わってくれることを祈るばかりである。

そうこうしている内に大会のレギュレーションについて発表があった。今回は魔法師同同士の模擬戦闘ではなく、3人一組で制限時間内に怪物を模した標的を倒していってスコアを競うというオーソドックスな形式である。これなら実戦経験の豊富な新宿支署の3人娘は割と有利だろう。

「そういやさ、何で男子の大会はやらねえの?」

横から豊之内に聞かれ、私は前年の大会を思い出してしまった。

「去年チーム米長で出た時にね…」

たしかに、昨年までは男子の部もあった。男子は5人1チームだったので、私は米長コマンダーの元で神楽坂、土方、中須田と組んで出場した。結果優勝はしたのだが全員大会に熱中するあまり無制限に必殺技を使い過ぎ、試合会場となった埼玉県某所の原っぱをクソまみれにしてしまったのだ。

「それで周辺自治体に酷く怒られちゃってね、男子の部は今年から廃止になりました」

流石の豊之内も呆れていた。

(つづく)

 

雑記43

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(ねりねりねりねりねりねりねりねりねりねりねりねりねり)

年明けて最初の日記なので盛大にケツから練馬大根をひり出すね〇丸くんの真似をしてみました。もちろん本物のねり〇くんのケツから大根は出てきません。

ショートアニメ『one room』の最初に出てくるのウチの近所ですね。西武池袋線江古田駅の周辺。あの辺は日大芸術学部だの武蔵野音大だのがあるので芸術家志望がけっこう集まっています。そういう人たち向けのアパートも充実していますよ。だから何だ?と言われると何もないです。

先週(アレ?先々週だっけ?)さかこ君やえむ君、すもと君らと飲みに行きました。飲みに行ったらオタク酒場のオタク部屋に通されました。店内BGMはラッドウィンプスでした。やめろ!ワシはキモオタじゃない!と叫びながら飲酒をしました。さかこ君の目の前で引いたデレステ10連ガシャは当たりませんでした。

今日はいつものオタクの仲間たちと焼肉に行きました。ねねっちの話をしました。ねねっち可愛い…可愛くない?そんし君は「ねねっちはギャーギャーうるさいからダメ」と主張していましたが、ryさんの「そんしだってギャーギャーうるさいじゃん」という反論を食らっていてワロタ。

WPはウォーキング・ペニス。WBはワイルド・ビースト先輩。WDは?ホワイト・ディンゴ隊。ここ来年のセンターに出ます。

今回はあんまり書くことがないのでここまでにしておきます。おわり

 

場外戦とも二次創作ともつかない謎の話

これから書くヤツは弊ブログでいつも書いてる謎の創作文書の昔的な話なんですが、都合により一部の登場人物の名前をアイ○ルマス○ーシンデ○ラガー○ズから流用していますので、書く前に謝っておきます。名前だけで性格とかまるで原型をとどめていないが許して欲しい。スイマセン許してくださいホント、しまむらくんの貞操あげるんで…

………………………………………………………………………………………………………

20世紀から21世紀へ切り替わった直後頃、日本には魔法庁という官庁が存在していた。英国の魔法省に倣って作られた魔法庁では、「英国式の伝統ある魔法が最上の存在で他は邪道」という徹底した差別意識が蔓延していた。英国式魔法の使い手たちは自らを魔法師と称し、時に能力よりも家柄を重視することも少なくなかった。

魔法庁には米国式魔法の修行を積んだ職員も一定数在籍していた。米国式の魔法は、古代ケルト人達の精霊魔法を近代以降に再研究、構築した比較的新しい魔法であり、当然伝統を重んじる英国式魔法の使い手達からは軽んじられていた。他に近代ドイツで成立した魔法工学という研究分野もあったが、日本を含めドイツ以外の国ではあまり研究が進んでいない。

そんな日本の魔法使い業界にも少子化の影響はじわじわと及んできていた。家柄を重視する魔法師達の間ではお見合い結婚が主流であったが、女性の地位向上の影響もあってか出生率の低下が進み、後継者不在で消滅する家系も出てきていた。

魔法師の家に生まれた者が必ず魔法を使えるわけではない。そのため子供が生まれても、魔法力が無いという理由で家から追い出されることも昔は珍しくなかった。子供がたくさんいる時代はそれも通用したが、最近ではそうもいかない。魔法庁ではお偉方、即ち魔法師の名家の当主達が日々頭を悩ませていた。

そんな時、魔法庁内でにわかに持ち上がった計画があった。『魔法少女量産化計画』と呼ばれていたその計画を主導したのは、魔法庁の美城という当時30代前半の女性参事官であった。美城家は魔法師の家柄としてはギリギリ上流、武士で言えば1万石ちょうどの小規模大名と言ったクラスであり、そこから出て30代で参事官になった彼女が有能であったことは間違いない。

計画の概要は「魔法工学の技術を応用し、魔法能力の無い人間に人工的に魔法力の因子を植え付ける」というものであった。被験者候補となったのは、魔法師の家に生まれながら魔法力を持たず、家を追われそうになっていた少女達であった。魔法庁の上層部はこの計画に対し良い顔はしなかったが、背に腹は代えられぬと黙認された。

この計画において、被験者の経過観察と身の回りの世話を任されたのが若手職員の米長主査と高井戸主事だった。二人とも優秀な人材だったが米国式魔法の使い手であったため出世コースからは外れていたのだ。この二人は仕事の合間に母校の魔法研究サークルによく顔を出していた。そのサークルに当時在籍していたのが神楽坂庭夫であり、土方敏乗であり、私だった。

最初に選ばれた被験者は3人だった。三船美優(当時11歳)、川島瑞樹(当時13歳)、そして高垣楓(当時10歳)の3人が、いずれも魔法師の家柄としては中流くらいの家の生まれながら先天的に魔法力を欠いており、家の中に居場所がなかったことから適任者と見做された。

魔法力因子の移植自体はドイツでその手法が確立されており容易だった。高井戸さんは3人の少女に移植の副作用が出ないかを慎重に観察していた。米長さんは魔法の基本的な使い方について教える係であった。3人は学校へ安定して通うことが難しくなったため、私達大学の魔法研究サークルの構成員は彼女たちに勉強を教えるよう、米長さんに頼まれた。

この3人での実験は成功とは言い難かった。魔法師に比べて体内からの魔力供給が安定せず、魔法庁の幹部たちが嫌う米国式魔法との複合でなければ実戦レベルの魔法が撃てなかったのだ。複合魔法は極めて難解な呪文が必要であり、三船さんも川島さんも実戦レベルには到達しなかった。最年少の高垣さんだけは複合魔法を安定して撃てるようになった。その影響で彼女の透き通るような青い目は、片方が翡翠色に変色した。

大規模な計画の割に得られた成果が少なかったため、魔法庁の上層部は早々にこの魔法少女量産化計画を失敗と断じた。その責任を体よく押し付けられた美城参事官は失脚し、民間の魔法工学研究所に天下った。3人の少女も同行した。

その時の魔法庁のやり方に対し米長さんの怒る様子を、私はよく覚えている。思えばあの時に米長さんは魔法庁を破壊することを決意したのかもしれない。彼が魔法庁に辞表を叩き付け科特隊に移ったのはこの数年後のことである。一方の高井戸さんは現状に不満を持ちながらも魔法庁に残り、陰で美城さんの研究所を支援していた。

これらの顛末を米長さんから聞かされた夜、私達は部室でテレビを観ながらだべっていた。当時我々は大学4年生であり、就活の話ばかりしていた。

「島やんは結局魔法庁受けなかったんだっけ。親父さんのコネなかったの?本命は地方公務員?」

神楽坂に聞かれて私は首を縦に振った。

「父は結局係長止まりで定年でしたからねえ。やはり魔法師の名家の生まれでないと。神楽坂君こそ魔法庁受けなかったんですか?エスタブリッシュメント層に近づくチャンスでしょうに」

「バカバカしい、先祖の功績だけでふんぞり返ってる似非エスタブリッシュメント層なんかに興味ないよ。俺は法科大学院に行く。成功は自分の力で掴まないとな」

私は神楽坂の受け答えに苦笑しながらも、実に彼らしいと思った。

美城さんは失脚後も魔法工学による魔法少女の量産化を諦めたわけではなかった。彼女が魔法少女の量産化にこだわった理由を、当初は私も含め大多数の人間が実績作りのためだと思っていたが、彼女の真意は「魔法力を持たないために家族から疎外された少女達の救済」にあったのだ。もし実績作りが目的なら、最初に思わしい成果が出なかった時点で投げ出していただろう。

この4年後、「因子の移植は対象が若いほど成功しやすい」という研究結果に基づき、2度目の実験が行われた。この時対象になったのは荒木比奈(当時9歳)、新田美波鷺沢文香相葉夕美(いずれも当時8歳)、十時愛梨(当時7歳)の5人だった。第1次計画の被験者3人は川島さんと高垣さんがあまりにもマイペースでスタッフ一同手を焼いたが、今回は皆比較的おとなしく実験は楽だったらしい。

苦労したのは、5人とも幼かったため身の回りの世話が大変だった点であろう。幼児は特に体調を崩しやすいので、医療スタッフを揃えるのに美城家の家財をほとんど売り払ったという。なおこの頃私は地方公務員を辞し、科特隊に合流している。当時は私達科特隊もヒマだったので、非番の日には米長さんと共に川島さん達に米国式魔法の使い方を教えていたものである。

この第2次計画で誕生した5人の魔法少女は、魔法庁の魔法師たちと比べても遜色のない能力を会得していた。これに気をよくした美城さんはすぐにでも第3次計画に移りたかったようだが、予想外の成功に驚いた魔法庁によって魔法師の家から被験者を出さないよう圧力がかけられてしまった。

この2度にわたるプロジェクトによって誕生した8人の魔法少女達は、魔法を使う身でありながら魔法庁からは疎んじられていた。心無い魔法師達は彼女らを「出来損ない」「加工品」などと呼んで蔑んだ。当初は無邪気な少女達に勉強を教えるだけだった私達は、いつの間にか傷ついた彼女たちのお悩み相談コーナーと化していた。

またこの頃、三船さんが魔法師の若者に石をぶつけられて怪我をするという事件があった。この一件を機に、私達は本格的に魔法庁の解体、魔法師の特権の剥奪の必要性を痛感した。ホモ卿の叛乱を契機とした魔法庁と科特隊の紛争が始まるのは、このわずか1年後のことである。

つづかない

 

第39話

年が変わっても、年度が変わるまでは3か月ばかりタイムラグがある。誰が決めたのかは知らないが、少なくとも日本では昔からずっとこのルールが採用されているのである。特に我々の勤める官庁では。

正月の連休が明け、出勤すると皆ぼ~っとしている。

「いや~カミさんの実家行ったらお年玉を絞られましてねえ…」

と愚痴をこぼすのは秋山係長。

「酒を飲みながら駅伝走者と20キロ並走したら警察に職質されました。ちゃんとジャージ姿だったのに…」

とは坂上の言葉。腐っても戦鬼界のエース候補である。

「やあやあ諸君明けましておめでとう。今年もよろしくな」

米長コマンダーは甘酒のパックを持って現れた。職場で酒盛りは出来ないので(約1名常習犯がいるが)、甘酒で新年を祝おうということか。

「さて新年早々に恐縮ですが、科特庁の主催で魔法師技能選手権という大会が開催されることになりました」

私は自分のパソコンに来ていた通知メールの内容を読み上げる。魔法師の技能向上を目的とした模擬戦は魔法庁の時代は頻繁に行われていたが、見世物的な面が強く「若い女性魔法師を見せて金を儲けている」との批判が強かったため魔法庁解体後は行われてこなかった。

「新宿支署での推薦枠は3名です。宮前さん妹、一之江さんと鹿島さんは学校の方で枠があるので他の方で参加を希望される方いますか?」

「私出ます」

珍しく積極的に手を上げる宮前さん。妹への対抗心があるのだろうか?

「え、宮前さん出るんなら私も…」

と熊谷さん。まあこの二人は新宿支署の看板的な存在なので妥当な人選と言えよう。残りの一人をどうするか。矢吹係長は審判を務めるので出場できない。実力で言えばスギウラさんだが、タイプの取り合わせを考えると神木田さんという選択肢もある。経験を積ませる意味で島村さんでもいいし、二人との相性を考慮に入れれば白崎さんを選ぶべきだろう。

「美咲ちゃんも出るでしょ?」

熊谷さんの一言で白崎さんに決まった。

「大会の開催地は…青梅市高水山ですね。懐かしい山だ…」

私は高水山には個人的に良くない思い出があった。

まだ科特隊が科特庁に格上げされて間もなかった頃の話。私は当時主任の職層にあり、同期の神楽坂と共に青梅~奥多摩地区の警備担当であった。

「こんなクソ田舎で警備だなんてナンセンスな仕事だ。科特庁はいつから警察や自衛隊のお手伝いさんに成り下がったんだ」

軍畑駅近くの山道を軽トラックで走りながら愚痴をこぼす神楽坂。高水山の荒れ道を軽トラックで登って行く。

「組織体系が確立するまでの辛抱でしょう。元魔法庁の職員だってホモ卿に同調して叛乱に加わったのは半数程度ですから、その残党処理も必要ですし」

助手席の私はやる気なく答えた。英国の魔法師で煽動家だったホルデモット卿は、我々の間では略してホモ卿と呼ばれていた。尤も彼に同性愛の嗜好があったかどうかはわからない。

そのまま山道を進んでいくと、向こうから大型の動物が出現するのが見えた。私も神楽坂も、すぐにそいつの正体は分かった。ケツァルトルと呼ばれる、異世界から時々迷い込んでくる大型の猛獣だ。通常はカバやインドサイ程度の大きさで、性格はとても凶暴である。だがこの時に出現した個体は明らかに大きかった。

「…ケツァルトルってこんなにデカかったっけ?」

「いや、明らかに我々の知るケツァルトルの倍はありますね。何だこれは、たまげたなあ…」

だが問題は大きさだけではない。我々の眼前の大型猛獣は明らかに殺気立っていた。どうやら迎撃するしかなさそうだ。まず神楽坂が呪文を唱え火球を放つ。だがケツァルトルに怯む様子はない。続いて私が光線魔法を放つが、怪物の表面に少し傷を付けた程度で有効な攻撃にはなっていなかった。

この頃は神楽坂も私も自分の固有の魔術の研究がメインで、攻撃魔法は初歩的な物しか使うことができなかったのだ。その初歩的な攻撃魔法に刺激され、目の前の怪物はより殺気立っていた。

「あ~これヤバイかな?」

「ヤバイでしょうねえ…」

「島やん何か作戦ある?俺は一つ思いついたぜ」

「私も一つ思いつきました」

「「逃げる」」

私と神楽坂は乗ってきた軽トラに飛び込むと、一目散に逃げ出した。

「アイツ追っかけてきたな!マズイぜヤバイぜピンチの連続だぜ」

サイドミラーを見ながら神楽坂が叫ぶ。

「とりあえず自衛隊に通報しました。もっとスピード出してホラホラホラホラ」

私は携帯電話で特生自衛隊に通報を行い、初歩的な攻撃魔法で道に障害物を落としながら叫んだ。

かくして我々は特生自衛隊が到着するまで30分以上も山中を軽トラで逃げ回ったのであった。怪物はその後、駆けつけた特生自衛隊に倒された。

「アレも10年くらい前の話ですか。懐かしいなあ…」

回想する私をよそに、出場が決まった3人は打ち合わせと称して近場の喫茶店に出かけてしまった。

「まあ、いざとなったら熊谷さん達を勝たせるために私が水面下で他チームの魔法師達に干渉しますよ」

私はおよそ役人とは思えないド汚い提案をしたが、米長コマンダーに「そんなことしなくていいから(良心)」と却下されてしまった。

魔法師技能選手権は2月10日、ニートの日に開催されるとのことである。我が新宿支署の誇る3人の美少女(少女という年齢ではないが)魔法使いがどんな闘いを見せてくれるのか、実に楽しみである。

つづく

場外戦2

東京の中心部、皇居にもほど近い場所に科特庁の本庁舎はある。他の官庁に比べれば小規模ではあるが高層のビルディングを有する科特庁。基本的に高層階には来庁者の多くない部署が入り、低い階ほど来客が多い。これは動線の問題によるところが大きく、大体どこでもそうだろう。

受付やサービスコーナー、売店のある1階は別として、最も訪問者が多いのは2階にある亜人戸籍課であることは間違いないだろう。私、車川主査の所属する部署である。今回はそんな亜人戸籍課の1日の流れについて自分語りするゾ。

朝。開庁を前に前日の夜間に提出された届書を仕分けする。一番多いのは死亡届だ。この日は吸血鬼のもの4件、狐娘のもの3件、天狗と雪女が各1件。官庁の書類は和暦表記されているので、亡くなった天狗の死亡届を見ると生年月日は慶長元年12月22日。即ち享年400歳である。長寿な天狗族の中でもこれは大往生だろう。

次に多いのは出生届。この日は狐娘11件、犬娘4件、鬼と吸血鬼が各2件。珍しく死亡届より件数が多い。実をいうと、戸籍課の業務で一番難しいのがこの出生届、特に狐と犬のものだったりする。どちらも名字がなく、名前も漢字1文字ないし2文字で付けるので、同名が発生しやすいのだ。そのため科特庁では犬・狐の各部族との協定により「4親等以内の者に同名を付けることを認めない」ということを取り決めている。

狐娘は花・植物に由来する名前を付けるのが通例である。葵・茜・雛菊・杜若・若葉などがある。ちなみに「桃」「桜」「百合」あたりはやはり人気銘柄であり、どの血統にも一人は必ずいる。一方、犬娘の方は自然現象に由来する名が一般的だ。陽・漣・雪・旭などがある。

婚姻届は同族間ならばこれと言って難しいものではない。鬼も天狗も吸血鬼もそれぞれの戸籍システムが構築されているからだ。人間と結婚することの多い雪女は多少厄介で、夫となる人間の本籍地へ戸籍照会をかける必要がある。狐と犬はそもそも婚姻という習慣がない。

届書の整理が終わると開庁時刻になっている。と言っても年末のこの時期に来客なんてそうそう来ない。10時くらいに狐娘が自分の戸籍を取りに来た。新宿支署に居候しているという狐の少女は、来年から正式に科特庁に就職するため戸籍抄本の提出を求められたのだという。銀髪に青い瞳、白い肌の狐娘の少女は、新宿支署の職員の姉ちゃん二人組と連れ立って帰っていった。

職員の姉ちゃん二人には見覚えがあった。熊谷主事と宮前主事。若くして新宿支署のエースとして名高い魔法師のコンビだ。私は実物を見るのは初めてだったが、少なくとも科特庁の広報紙の写真で見るよりは美人だった。

昼休み前には吸血鬼が一人、婚姻用に戸籍謄本を取りに来た。黒い髪をオールバックにしてスーツをピシッと着込んだ30手前くらいの青年だ。今日日吸血鬼も人間と大差ない服装をしていることが多い。黒いマントにシルクハットなどという恰好をするのはせいぜい式典の時くらいなものだ。

昼休みが明けると、今度は20代前半くらいの吸血鬼の姉ちゃんが戸籍身分証明書を取りに来た。金髪に赤い瞳、少し長めの吸血歯をしているこの女性は、恐らくドイツかオーストリアからの移住者の家系だろう。戸籍データを見ると、案の定彼女の高祖父の欄に「明治31年3月1日ドイツ帝国ブリュンシュタット家より帰化」と書かれていた。

ちなみに身分証明書というのは「人間を襲った経歴がない」「非行の前科がない」「自己破産していない」「成年後見登録を受けていない」ことの証明書で、要するに「私は何も問題を起こしていませんよ」という証明書だ。だいたい就職の際に提出を求められることが多い。この姉ちゃんも恐らく就職するのだろう。

次に来たのは天狗のおっさんだった。尤も天狗は超長寿なので、おっさんに見えても100歳を超えていることは珍しくない。戸籍を見てみると「慶應3年1月4日生」となってた。御年149歳である。

このおっさんが取りに来たのは戸籍の附票だった。住所の履歴が載っているものだ。印刷してみたらまあ長いの何の。結婚により戸籍が独立してから今までの100年分の住所が記載されているので当然といえば当然か。天狗の附票は「福岡県英彦山山中」とか「東京都八王子市高尾山山中」といった表記が多いので、正確な住所の記録というよりは「いつ、どの山に入っていたか」の証明書という意味合いが強い。

夕方になり一息ついていると電話が鳴った。

「はい、亜人戸籍課の車川…」

「ピーッ」

受話器の向こうで電子音が鳴っている。FAXだ。送信元は科特庁新宿支署。

『調査事項照会書

管内住民の動向調査のため、下記の者の戸籍謄本および附票全部事項証明書各1通の送付を願います。

氏名:○○○○

種族:吸血鬼

戸籍:○○家族系、筆頭者××××

生年月日:平成△年○月□日

なお、送付いただいた書類は本件調査以外の目的では使用いたしませんことを添えて申し上げます。

科特庁新宿支署 署長補佐 島畑(公印省略)』

「やれやれ、今日は来客少ないからもう帰れると思ったのになあ」

私は愚痴をこぼしながら戸籍のデータを探し、新宿支署のプリンターに転送する。こうするとわざわざ本庁舎まで取りに来なくても済むというわけだ。あとの調査は支署の管轄なので、私の知ったことではない。

17時15分になったら窓口を閉め、設備の確認をして帰る。これが亜人戸籍課の1日の仕事の大まかな流れだ。これを週に5日ずつこなしていく。地味な仕事だが、人間と共生している亜人達の生活を支える重要な仕事なのだ。以上、科特庁亜人戸籍課の車川主査からの報告である。

つづく?

 

 

 

雑記42

2016年も残すところあとわずか。飯塚市長は公務中の賭け麻雀が発覚し抱腹絶倒の会見を見せつけ、ロシアではツポレフが墜落。トルコではロシア大使が暗殺され、ドイツでは難民テロ。今年はタイ国王崩御カストロ議長死去、SMAP解散にトランプ旋風に相模原19人殺し、イギリス離脱などが重大ニュースで打線どころか野球チーム作れるレベルでヤバさがありますね。エンタメ部門は飯塚市長で決まりですけどね。

この間はさかこ君と豊洲から台場、レインボーブリッジを通って品川の方まで歩きました。豊洲市場、物凄く立派な施設が出来上がっていましたが土を盛らなかったばっかりに使い物にならず、豪華なハコモノが横たわっています。いっそあそこでコミケ開催すればいいんじゃないかな?オタクは汚染物質とか気にしなさそうだし。

レインボーブリッジは横風が強くてサムゥイ!長さは1.5キロですから雑司ヶ谷駅から西早稲田駅くらい。早稲田ー池袋間の約3キロをコンスタントに歩いている人間にとってはどうということのない距離です。でも芝浦側アンカレイジに和式トイレ作ったのは無能無能アンド無能。

東京湾岸部、総じて道路のアスファルトが硬い。けっこう走ってる人もいましたがアスファルトがあれだけ硬いと膝とか痛めそう。土とか天然芝はまあ衛生管理とかで難しいのはわかりますが、せめてラバーチップを敷くとか廃材リサイクルの柔らかタイルを使うとかしてほしいですね。

蒲田で鶏ラーメンの店で昼食。美味い。美味いが量が少ない。二郎や家系レベルとは言いませんが、もうちょっとボリュームが欲しい。店に鞄を忘れて慌てて取りに戻る。1回休み。

そして中目黒から中野坂上まで山手通りをひたすら行進。さかこ君も最初は余裕の表情でしたが寒さと疲れで次第に口数が少なくなっていきました。目黒区の住民は交通マナーが悪い(激怒)。代々木の辺りを通過している時に怪文書の今後のネタについての話をしました。さかこ君から「模擬戦でもやらせてみては?」という提案があったので検討します…

夜の忘年会まで時間が余ったのでマックで時間を潰しました。私はコーヒーとシェイクを注文。う~ん飲み物と飲み物で飲み物がかぶってしまった。なるほどこの店は飲み物だけで十分なんだな…さかこ君はなんか三角形のパイを食べてました。パイといえば告白実行委員会で瀬戸口雛ちゃんと高見沢アリサちゃんがアップルパイを半分に割って食べてましたね。ああいうのはいいと思いまスゥゥゥゥゥ。

忘年会をインド料理店でやるという試み。う~んこういう催しでインド料理店は意外にも初めてだ。わさすら君は店員にしか見えませんでした。大学院生のA君改めA先生はこの店のおじさんと顔なじみなので完全に仕切ってました。詳しく書きたいけど私も深酒をしてよく覚えていないので割愛。久しぶりにしまむらくんに会いました。

次のシンデレラフェスでアップルパイプリンセス欲しいけどな俺もな~。年末年始は飲み会だらけ。おわり

 

第38話

「あ~寒い。こういう馬鹿みたいに寒い日はアルコールを摂取して体内の燃焼効率を上げないと仕事にならないナア」

私に聞こえるよう大声で言いながらデスクで堂々と飲酒している坂上である。そんなに飲みたきゃ工業用アルコールでも飲んでろ、と言いたいところだが子供(研修生ズと陽ちゃん葵ちゃん)の前だったのでグっと堪えた。

「今日の実調は2か所。中野区鷺宮練馬区中村です。鷺宮には熊谷さん、宮前さん、白崎さんと宮前さん妹。中村にはスギウラさん、島村さん、鹿島さん、一之江さんに行ってもらいます。矢吹係長と神木田さんは本部待機です」

私はいつも通り報告書に基づき人員を割り振る。来年から神楽坂が合流すればこういう仕事を任せられるので、私ももう少し現場に出られるようになるだろう。尤も今年入った若手3人娘も研修生3人娘も着実に力をつけてきているので、私の出番自体がそうそう無いかもしれないが。

鷺宮は昔は低湿地だったらしく、神社に多くの鷺が飛来したことが地名の起源であるという。西武の駅前は喧噪を伴っているものの、一本路地を入れば閑静な住宅街である。

「あ、神社の方に何かいますね…」

異常に気付いたのは白崎さんだった。甲羅の幅1メートルはあろうかという巨大な蟹の怪物がいたのである。甲殻要塞生物カニ・ドウラ・クー。不当な殺され方をした蟹の怨念が集合した妖怪の一種である。赤い甲羅には禍々しい棘が生え並び、大きな鋏は人命さえ奪いえるものである。

中村もまた、昔は低湿地であった土地である。昔まだ練馬区板橋区の一部であった時代には大きな沼があったものだと、私は主任時代この地域の老人に教えてもらったことがあった。

「あそこの畑に何か不気味な影があるわね…」

スギウラさんが同行している後輩達に告げる。目の前に現れたのは、いつかスギウラさんが退治した豚の骨の妖怪であった。その時のものより幾分小柄なので、恐らくは別個体であろう。

同時刻、鷺宮側。

「あのカニの泡は有毒です。そのまま戦うのは危険ですね」

宮前さんがタブレット端末で資料を確認している。カニ・ドウラ・クーの泡は人間の細胞にダメージを与える成分が含まれているのである。

「それじゃ装備を変えましょうね。変身!」

熊谷さんが叫ぶと、彼女の身を包んでいた衣服が変化し始める。白地に薄い青を基調とした振袖のような和服風の装束に銀色をあしらった帯。熊谷さんなりの魔法少女テイストのコスチュームに身を包み、カニの妖怪に向き合う。魔法少女コスチュームは単なる飾りではなく、魔法力を帯びているため身体を保護する機能があるのだ。

それを見ていた他の3人も一斉に変身魔法を起動する。白地に若草色を基調としたドレス風の装束は白崎さん。黒いカーディガン+黒地に赤と金の装飾の入ったローブという魔法使い然とした装束は宮前さん。詩織ちゃんも魔法学校で変身魔法を履修済みだったりする。白単色に袖口に青い縫い付けの入った巫女服のような上衣に水色の袴。濃紺に金色の縁取りがついた帯は背部で大きく蝶結びになっている。杖も祓い串のように変化している。

「今の魔法学校ってそんなのも教えてくれるんだ…」

呆気にとられる宮前さんと熊谷さん。

その頃、中村。赤いドレス風の装束に身を包んだスギウラさんは。豚骨の妖怪を倒し終えた所であった。思っていた以上に執念深い相手だったらしく、流石のスギウラさんも肩で息をしている。汗で白い肌に金髪が貼り付いている。

「3人ともお疲れ様」

疲れた表情は一切見せず、後ろで推移を見守っていた後輩3人にねぎらいの言葉をかけるスギウラさん。3人とも防護のためコスチュームを身に纏っている。島村さんの装束は姿形は白崎さんのそれと瓜二つだが、配色が違っている。淡いクリーム色地に濃い青が基調になっており、彼女の得意とする魔法系統を現している。

一之江さんの装束はフリルが多くてアイドル衣装みたいだ。配色も淡いピンクに翡翠色と黄色のチェック模様とけっこう派手目である。本人の大人しい性格とは対照的と言えるだろう。鹿島さんの装束はセーラー服風である。白地に濃紺の上衣、濃紺のプリーツスカートで夏ならばかなり涼しげだろう。リボンの付いた丸い帽子がお洒落だ。

それはさておき、鷺宮では。

カニ・ドウラ・クーの予想外の甲羅の硬さに苦戦していた。熊谷さんと詩織ちゃんが足回りを凍結させて動きを止めることに成功したものの、有害な泡と危険な鋏のために迂闊に接近できない。宮前さんが高圧の電気を一点に集約させ、即席のレーザーメスのように射出する。3度か4度繰り返した所ようやく甲羅に穴が開いた。

「あの穴から入れます」

白崎さんは呪文を詠唱していく。ほどなくして蟹から草が生えてきた。それでも蟹は動きを止めないので、白崎さんは草の根を使って甲羅を内側から少しだけ壊した。そこから新たな草を生やす白崎さん。蟹は背中全体に草木が生い茂ってもなお動き続けていたが、10分ほどでようやく動きを止めた。

私が豊之内、秋山、新城の各係長と麻雀を打っていると実調出動を終えた2組8人の魔法師たちが戻ってきた。それぞれ私に報告書を提出すると、思い思いに上の階の風呂場へと向かっていった。なお私は麻雀は勝てなかったが大負けもしなかった。途中で坂上が持ってきた酒を皆で飲み始めたため、入浴を終えた女の子たちが降りてきた時には宴会状態に入っていた。

激動の平成28年も残すところあとわずかになった。しかし年の瀬にはわけのわからない依頼がよく来るものだ。私は熊谷さんとスギウラさんから受け取った報告書に目を通すため、飲酒を途中で切り上げ自席へと向かった。

つづく